「文化ホールの経済学」
はじめに
1998年10月に「文化ホールの危機管理」を上梓した。
1996年12月に発生した愛知芸術文化ホールでの事故が私の心を痛めたから
である。その事故から2年余、文化ホールの防災対策や運営の考え方にあまり変
化が見られない。
この一連のレポートを書き始めて、改めて文化ホールの施設管理者や受託関係
の技術者の人たちと話し合った。
その結果、文化ホールの施設管理者と受託会社の技術者、その会社の管理者
双方に大きな考え方の乖離が見られた。この考え方の乖離は重要な意味を持って
いる。この考え方そのものが、その地域に密着した演出創造空間を実質的に創り
出しているからである。重要なポストにある、技術を売る側と買う側の考え方(委託
する側と受託する側)になぜ大きな考え方の乖離があるのか。
考え方が異なると、どのような問題があるのか異なる理由は何か。
永い文化ホールの管理運営の時間の中で、施設側の管理運営に対する考え方
や方法が成熟していない理由は様々であろうが、多くの場合は職員の異動等によ
る熟練度の未完成や考え方の統一性の無さや縦続性の無さが主な理由となって
いるのではないかと私は考えている。また、多くの場合、文化ホールの運営の中心
的な存在である技術に対して施設管理者側は、理解と認識が欠けることが多く、
ホールの技術の運営は受託者側の一方的な考え方で行われている感がする。
このようなことがないよう、施設管理者はある程度の文化ホールに対する認識
と内容の理解が今求められよう。
本書は、既刊の拙著「文化ホールの危機管理」を土台におきながら経営という
言葉の意味を予算や物や人を合理的にどう使うかという視点で、施設側と施設に
関わる人たち双方の立場を明確にすることによって、地域の文化ホールが合理性
と芸術性をもった施設として、将来の地域文化創造の場となって欲しいという願い
から書いたものである。
また、視点を少しずらし、施設を管理運営している人や受託の関係者に知ってほしい
事柄や改善して欲しい事柄を掲載し、読者とともにこの問題を改めて考えてみたいと
思っている。