左は前回に引き続き、昨年の天狗谷窯跡の発掘調査で出土した染付瓶である。A窯操業時の中でも早い段階と推定される物原層から出土しており、同じものが数個体まとまって出土している。この頃の瓶としては、かなり特殊な形状をしており、類例はなかなか探せない。
胴部の上端部には、頸部を中心に迴らした菊花文が陰刻されており、首から胴部にかけて4ヶ所に染付横帯文が迴らされている。底部は欠損しているが、共伴するほかの破片から、欠損部の下部より通常のいわゆる砂高台が付されていたことが確認できる。口縁部の径は4.5cm、胴部の最大径は14cmほど、器高は本来20cm程度と推定される。
次に右の青磁瓶。形状的には瓶の定番の一つ鶴首形である。出版物等にたびたび掲載されているので、どこかでご覧になった方も多いのではなかろうか?掲載されているのは、もう少し遺存状態のよい別個体であることが多いが、ぜんぶ昭和40年代の発掘調査の際、一番古いE窯焼成室床面から出土したものである。
なぜ、この二つを並べたかといえば、何となくお分かりであろうか。
帰属する窯の違い、染付と青磁の違い、形状の違いなどなど…、違うと言えば鶴とアヒルくらい違うのだが、よく見るとなんとなく似ている気もする。器高はほぼ同じ、頸部を中心に迴らされた陰刻菊花文も同じ、青磁の方もよく見ると、首部と腰部に陰刻の横帯文が迴っている。
よくよく見れば基本形自体も近いのだが、大きな印象の違いを生じる要因となっているのは、青磁の方が口径3.7cm、胴部の最大径12cm前後とやや細身で、口頸部と胴部のバランスが異なる点であろう。両者はE窯の最終焼成品と続くA窯の初期の焼成品であり、時期的にも連続性が高い。つまり、一見特殊とも思われるA窯の染付瓶の形状ではあるが、おそらくこうしたE窯の鶴首形の青磁瓶の器形に、その原点が求められるものと推定される。
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