「窯跡」「窯」「窯場」「窯体」

 


 


 かつてやきものを生産した焼成窯は、一般的に固有の遺跡名に「窯跡」という語を続けて表現される。しかし、そのほかにも「窯」、「窯場」、「窯体」をはじめ、類似したいくつかの用語があり、これらは一つの文中に混在して用いられる場合も多い。
 ところが、こうした用語には、微妙なニュアンスの差があり、しかも、多少記述内容の意図によって指し示す範囲も異なってくるため、ちょっとやっかいなのである。
 今回は、こうした焼成窯に関する表現の意味を少しまとめておくことにしよう。

 



 

 たとえば「天狗谷窯跡」といった場合、どういう範囲を連想されるだろうか。さらに「天狗谷A窯跡」という場合は、どうだろうか。
 この「窯跡」という用語は、ご存知の方も多いと思うが、焼成窯本体のみを示すわけではない。窯本体に加えて、作業段や排水溝、覆屋(の柱穴)といった外部の付帯施設、さらに失敗品を廃棄した物原など、焼成窯に関わる一連の施設を合せたものが「窯跡」という概念なのである。
 ということは、「天狗谷窯跡」という場合は、狭い範囲で集中的に発見されている複数の窯体やその付属施設まで含めた部分となり、「天狗谷A窯跡」という場合は、その中でも「A」と命名されている窯本体に関わる施設のみを集めた範囲ということになる。
 つまり、「遺跡」という概念と同じで、窯の位置した場所という意味の「窯場跡」といった概念にも近い。ただし、「窯場跡」の場合、ニュアンス的にはやきものの生産工房まで含めたさらに広い範囲を示すこともあり、範囲としては「窯跡」と同じかそれ以上ということになる。
 また、同様に「窯跡」の同義語として用いられるものとして「窯」があるが、この用語の場合には、逆に同じかそれ以下となる。それはたんに遺跡であることを示す「跡」を省略しただけであれば「窯跡」と同義であるが、それとは別に窯本体を示す場合も見られるからである。たとえば「天狗谷A窯は、全長○○mで…、」と記される場合などがそれに当たる。
 では、「窯跡」の中でも、窯本体のみを指す場合の表現はどうだろうか。これには、通常「窯体」という用語が用いられる。例えば用法としては、「天狗谷A窯跡の窯体」という具合である。しかし、この場合も、ちょっと気をつける必要がある。その時々によって、窯本体のみを指す場合と、窯本体周囲の付帯施設を合わせた範囲として表現されている場合に分けられるからである。つまり、前者では、「窯跡」を構成する個々の遺構(窯本体、作業段、排水溝、柱穴、物原など)を並列的な関係で捉え、この中で窯本体のみを「窯体」と称していることになる。しかし後者では、失敗品の廃棄場所である物原という部分に対比する形で、周囲の付帯施設も合わせて「窯体」と称するのである。
 似たような表現でも、微妙にニュアンスの違いがあるのがお分かりいただけただろうか。 

 




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