陶器と磁器の区分(1)

 −常識と現実のギャップを考えてみよう−

 


 
陶器と磁器は “何が違うの?” “どこで区別してるの?”。

 

 いうなれば、基本中の基本、むちゃくちゃ根源的な問題である。

 “そんなの常識でしょう!!”って答えが帰ってくるのも当然、たとえば、手元にある国語辞典を引くだけでも簡単に分かるし、今どき「陶器とは…、磁器とは…。」なんて断言してくれてるHPなんてごまんとある。 


 しかし、最初にひと言!!

 “ほかのサイトでも対応できることなら、あえてここで取上げる必要ないでしょ!!”
 

 というように、実は突き詰めると、むちゃくちゃ奧が深くて、なかなか簡単には説明すら難しいテーマなのである。

 そこで、“今回から”あらためて“できるだけやさしく”この問題について説明してみようかと…、実は…、さっきふと思いついた。こうした基本中の基本は、説明する方も頭を抱えてしまうが、同時に聞いてる方も確実に段々頭の中が混乱してくる。それに、ちょうどこないだ掲示板でも、基本的なご質問をいただいたとこでもあるし。まあ、陶磁器に関わってて知らないっていうのもシャレにならないので、きっと、それなりに需要はあるだろうということで…。ともに悩みましょう。
 若葉マークの方はこの際しっかりと。すでに勉強されてる方は、なまじ“常識”みたいに思われてる分、たぶん“今更ちょっと誰にも聞きにくい”し、自分でこっそり調べようにもちゃんと記されている文献も少ないテーマなので、気が向いたら目を通していただけたらと思う。きっと、徐々に“常識”と思われてることの恐さが、見えてくるはずである。

 



 


 やっぱりこうした場合、とりあえずは、“敵を知るには、まず己から!”足下をじっくりふり返っておく必要があるだろう。一番身近で信頼のおける活字といえば、国語辞典ということになるだろうか。最も定番の地位を得ている(?)「広辞苑(第5版)」には、【陶器】と【磁器】の項目には、以下のように記述がある。


【陶器】
 (1)土器のさらに進歩した焼物で、素地(きじ)が十分焼き締まらず吸水性があり、不透明で、その上に光沢のある釉薬(うわぐすり)を用いたもの。粟田焼・薩摩焼の類。→磁器。
 (2)陶磁器の総称。やきもの。せともの。

【磁器】
 素地(きじ)がよく焼き締まってガラス化し、吸水性のない純白透明性の焼物。有田焼・九谷焼の類。いしやき。→陶器


 この記述は、わたしが言うのも僭越なことは百も承知だが、たしかに本来の意味としては間違ってはいない。まとめると、以下のようになるだろうか。

 *素地が焼き締まっていないのが陶器で、焼き締まりガラス化しているのが磁器
 *吸水性があるのが陶器で、ないのが磁器
 *有色なのが陶器で、白くて透明性があるのが磁器
 *土で作るのが陶器で、(陶)石で作るのが磁器

 つまり、端的に言えば、原料とそれを焼き上げるための焼成温度の違い、ようするに原料の差によって陶器と磁器の違いが生じているということである。実に可もなく不可もなく説明されていて、さすが権威ある国語辞典と言うところか(本当に褒めてるんですよ)。たしかにヨーロッパあたりの陶磁器に限れば、これでかなり説明できるのかもしれない。ところが、磁器の生みの親、東アジアの陶磁器はとてもじゃないがこれだけじゃ歯が立たない。
 だって、考えてみていただきたい。




 “あなたは、本当に普段そんな基準で陶器と磁器を識別してますか??”

  たとえば、ある肥前製の伝世品を見て陶器と磁器の区分をする場合…、

 “はたして、割口も見えないのに、本当にガラス化してるかどうか分かりますか?”
 “はたして、水も入れてみないのに、吸水性があるかどうか分かりますか?”
 “はたして、全体的に釉薬が掛かっていた場合などに、素地の色が分かりますか?”
 “はたして、製品を見て、原料が土か石か分かりますか?”



 “いかがでしょうか?”

 実際には、意識の有無は別にして、少なくとも普段はこうしたいわば原料の性質に起因する要素を唯一の基準として、みなさんの脳は陶器と磁器を識別してないことは、お分かりいただけるのではないか?


 もっとも、世の中広いので、“いや!あくまでもそうしてる!!”“今後は、ぜひそうしたい!!”って方も中にはいるかもしれないが、別にこんなもん強制されるもんじゃないので、ご自由にどうぞ。



 “ただし、事前にひと言、ご忠告申し上げます!!”

 “理論上はともかく、実際の製品の場合は、それらの基準じゃ識別できないものがワンサカ出てきますので、あしからず!!”
 “だって、上の4つの条件の中で二つは陶器、二つは磁器の要件を備えているものは、いったい陶器なんでしょうか、磁器なんでしょうか?”


 
 さらに、しつこく“そんなものあるはずが…??”っていう方のために…。

 たとえば、肥前の青磁には、原料の性質上は陶器質のものと磁器質のものがある。現実的に、これらはそれぞれ陶器と磁器に分けて、配置されているだろうか?青磁は一般的に、全部磁器に分類されてはいないか?”
 もう一つ、18世紀以降、波佐見などで多く生産されているいわゆるくらわんか手と称されている雑な製品。これは胎土も釉薬も明らかに白色ではないし、原料の性質上はより陶器に近いが、通常は全部磁器に分類されている。本当はこれも陶器に入れるべきなのか?”




 “それでも、原料の性質のみで分けたいという方は、一度実際に泥沼にはまってみられることをお奨めします?わたしなんぞも、出土陶片にうずもれてしょっちゅうそんな回り道してるので分かりますが、たしかに受け売りと違って苦労を伴う分、いろんなことが身に付くことは間違いありません。だから決して無駄じゃありませんが、手付かずの生の資料って、なかなか手ごわいですよー。”


 まあ、それは置いといて、

 なぜこうした定義があるのに現物は必ずしも分類できないのか?
 しかも、
 といいつつも、実際にはこうした定義を意識しなくても分けられるのか?
 不思議ではないだろうか。


 これは、ひと言でいえば、

 現実的には今日の陶器と磁器を区分する基準が、必ずしも原料の性質だけに頼っているわけではないからである。

 ある面では、それ以上に関わりが深いもの、それが“〜〜(文字化けではありません。秘密です!!)と言えるかもしれないのだ。

 


 それでは、そのもったいぶってる〜〜って何!!ってことになるが、まあ焦らない、焦らない。とりあえず、このあたりまでちょっと頭の整理をしておいてもらって、いよいよ次回から、具体的に説明してみようかと思う。

 




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