障害者の権利条約 (障害者権利条約に関する国連総会)
権利条約 第24条教育(2007年3月29日仮訳)
障害者権利条約が特別委員会で採択 福祉新聞の記事から(2006年9月4日)
修正議長草案の 第24条教育(2006年1月)
JDF条約委員会事務局の 短報(2006年1月24日)
国連総会 アドホック委員会

 国連における障害者権利条約について

 現在、国連では障害者権利条約が議論されていて、障害者権利条約に関する国連総会のアドホック委員会 第7回特別委員会が2006年1〜2月に国連本部において開催された。修正議長草案第24条は、この特別委員 会の最終日に採択されたものです。また、第8回特別委員会が、2006年8月に開催され、最終日の8月25日に 権利条約案が採択されました。


障害者権利条約 国連委員会で合意 (福祉新聞での記事から:2006年9月4日)
年内に採択の見通し 〜日本、教育政策の転換も〜

 第8回障害者権利条約アドホック委員会が8月14日から25日まで、ニューヨークの国連本部で開かれ、 条約案が合意に達した。今後、細かな文言のチェックや公用語への翻訳作業を経て、今秋にも正式に委員会 案として採択される。これを国連総会に諮り、年内には採択される見通しとなった。日本政府も条約を批准 する意向を示している。
 批准されれば条約がインクルーシブ教育を潮流とした点、障害者が他者と同等の権利を得られるよう合理 的配慮をうたった点などは、特に国内法制度の見直しに影響を与えることになる。


 障害者権利条約を作るために、国連にアドホック委員会が設置され、本格的な議論が始まったのは2002年。 年に1〜2回のペースで加盟国が集まりながら協議を続け、5年越しの交渉が今回まとまった。
 各国から障害当事者がNGOとして参画し発言もしてきたことや、そうした協議スタイルが人権条約としては 異例の早期妥結を導いた点が特長だ。また、当事者が政府代表団にも参加。日本では弁護士の東氏が顧問と して就いている。
 今回合意に至った条約案は、全文と本文50条、付属文書からなる。
 条約の神髄は、全ての人に保障される人権が障害者にも等しく保障され、障害者の社会参加を進めるよう努 めるというもの。例えば、移動や情報入手の場面で障害者が不利にならないよう環境を整備すること、障害児 が教育を受ける機会を平等に持てるようにすること、雇用における差別を禁止することなどがあげられる。
 特に教育に関する条文は、日本の教育政策を転換させることになりそうだ。今年1月に開かれた第7回アド ホック委員会開催時点では、日本政府はインクルーシブ教育に消極的な姿勢だった。現行では、障害の有無で 学校を分けているからだ。しかし今回は協議の結果、日本政府も世界の潮流に乗った。
 ただ、こうしたことが実質的に現場で担保されるかどうかが今後の鍵となる。このため条約案には、締結国 がそれぞれ国内に監視機関を設けるほか、国際的なモニタリング機関も設置することが規定されている。条約 案は国連総会で採択され、各国政府が署名した後、20か国が批准した時点で発行する。
解説:アドホック(ADHOC)とは、ラテン語に由来し、「特にこのために」という意。特定の目的で委員会を設 置する時などに使われる用語。


障害のある人の権利に関する条約 第24条教育
川島聡・長瀬修 仮訳(2007年3月29日付訳)




締約国は、教育 についての障害のある人の権利を認める。この権利を差別なしにかつ機会の平等を基礎として実現するため、締約 国は、あらゆる段階におけるインクルーシブな教育制度及び生涯学習であっ て、次のことに向けられたものを確保する。
 (a)

人間の潜在能力並びに尊厳及び自己価値に対する意 識を十分に開発すること、並びに人権、基本的自由及び人間の多様性の尊重を強化すること。
 (b)

障害のある人が、その人格、才能、創造力並びに精 神的及び身体的な能力を最大限度まで発達させること。
 (c)

障害のある人が、自由な社会に効果的に参加するこ とを可能とすること。

この権利を実現 するため、締約国は、次のことを確保する。
 (a)



障害のある人が障害を理由として一般教育制度から 排除されないこと、並びに障害のある子どもが障害を理由として無償のかつ義務的な初等教育又は中等教育から 排除されないこと。
 (b)

障害のある人が、自己の住む地域社会において、他 の者との平等を基礎として、インクルーシブで質の高い無償の初等教育及び中等教育にアクセスすることができる こと。
 (c)
個人の必要に応じて合理的配慮が行われること。
 (d)

障害のある人が、その効果的な教育を容易にするた めに必要とする支援を一般教育制度内で受けること。
 (e)


完全なインクルージョンという目標に則して、学業 面の発達及び社会性の発達を最大にする環境において、効果的で個別化された支援措置が提供されること。



締約国は、障害 のある人が地域社会の構成員として教育に完全かつ平等に参加することを容易にするための生活技能及び社会性の 発達技能を習得することを可能としなければならない。このため、締約国は、次のことを含む適切な措置をとる。
 (a)


点字、代替的筆記文字、拡大・代替コミュニケーシ ョンの様式、手段及び形態、並びに歩行技能の習得を容易にすること、並びにピア・サポート及びピア・メンタリ ングを容易にすること。
 (b)
手話の習得及びろう社会の言語的なアイデンティティ の促進を容易にすること。
 (c)




盲、ろう又は盲ろうの人(特に子ども)の教育が、そ の個人にとって最も適切な言語並びにコミュニケーションの様式及び手段で、かつ、学業面の発達及び社会性の発達 を最大にする環境で行われることを確保すること。







この権利の実現を 確保することを助長するため、締約国は、手話又は点字についての適格性を有する教員(障害のある教員を含む。) を雇用するための並びに教育の全ての段階において教育に従事する専門家及び職員に対する訓練を行うための適切な 措置をとる。その訓練には、障害への認識、適切な拡大・代替コミュニケーションの様式、手段及び形態の使用、並 びに障害のある人を支援するための教育技法及び教材の使用を組み入れなければならない。


締約国は、障害の ある人が、差別なしにかつ他の者との平等を基礎として、一般の高等教育、職業訓練、成人教育及び生涯学習にア クセスすることができることを確保する。このため、締約国は、障害のある人に対して合理的配慮が行われることを 確保する。


修正議長草案の【 第24条 教育 】(2006年1月)

 締約国は、教育についての障害のある人の権利を認める。この権利 を差別なしにかつ機会の平等を基礎として実現するため、締約国は、次のことを指向する、あらゆる段階にお けるインクルーシブな教育及びインクルーシブな生涯学習を確保する。

(a)

人間の潜在能力並びに尊厳及び自己価値に対する 意識を十分に育成すること、並びに人権、基本的自由及び人間の多様性の尊重を強化すること。
(b)

障害のある人が、その人格、才能及び創造力並び に、精神的及び身体的な能力を最大限度まで発達させること。
(c)

障害のある人が、自由な社会に効果的に参加する ことを可能とすること。

 この権利を実現するため、締約国は次のことを確保する。
(a)


障害のある人が障害を根拠として一般教育制度から 排除されないこと、並びに障害のある子どもが障害を根拠として無償のかつ義務的な初等教育及び中等教育から 排除されないこと。
(b)

障害のある人が、自己の住む地域社会において、他 の者との平等を基礎として、インクルーシブで質の高い無償の初等教育及び中等教育にアクセスすることができる こと 。
(c) 個人が必要とするものに対する合理的配慮
(d)






障害のある人 が、その効果的な教育を容易にするために必要な支援を一般教育制度内で受けること。 障害のある人の個別的な支援ニーズを[十分に満たすため] [一般教育制度が十分に満たすことができない環境において は]、締約国は、完全なインクルージョンという目標に即して、学業面の発達及び社会性の発達を最大にする環境に おいて、効果的で個別化された支援措置が提供されることを確保する 。

 締約国は、障害のある人が地域社会の構成員として教育に完全かつ平等に 参加することを容易にするための生活技能及び社会性の発達技能を習得することを可能としなければならない。この ため、締約国は、次のことを含む適当な措置をとる 。
(a)



点字、代替スクリプト、コミュニケー ションの補助的及び代替的な様式、手段及び形態、並びに歩行技能の習得を容易にすること、また、ピアサポート 及びピアメンタリングを容易にすること 。
(b) 手話の習得及びろう社会の言語的なアイデンティティの促進を容易にすること。
(c)



盲、ろう及び盲ろうの人(特に子ども)の教 育が、その個人にとって最も適当な言語並びにコミュニケーションの様式及び手段で、かつ、学業面の発達及び社 会性の発達を最大にする環境で行われることを確保すること 。

 この権利の実現を確保することを助長するため、締約国は、手話又は点字に通じた教員(障害のある教員を含む。) を雇用するための並びに教育のすべての段階における教育に従事する専門家及び職員に対する研修を行うための適 当な措置をとる。
 その研修には、障害への認識を組み入れ、かつ、適当なコミュニケーションの補助的及び代替的な様式、手段及 び形態の使用並びに障害のある人を支援するための教育技法及び教材の使用を組み入れなければならない 。

 締約国は、障害のある人が、差別なしにかつ他の者との平等を基礎として、一般の高等教育、職業研修、成人教 育及び生涯学習にアクセスすることができることを確保する。
このため、締約国は、合理的配慮が障害のある人に提供されることを確保する 。

川島聡・長瀬修仮訳(2006年4月4日付)
障害保健福祉研究情報システムのホームページ



障害者の権利条約第24条(教育)に関する議論
国連権利条約第7回特別委員会 短報(2006年1月24日 JDF条約委員会事務局)

 本条文案は、他の条文案と比べても非常に長い協議時間が費やされてきたこともあり、教育をテーマにした 条文を盛り込むこと並びに議長テキストで提示された内容に対して、この日の審議においても強い支持を表明 する国が圧倒的であった。
 特に、教育への各国政府の取り組み意識や責任感は非常に高いものがあり、締約国が障害のある人のインク ルーシブな教育を差別なく平等に確保することや、一般教育制度や初・中・高等教育から排除しないこと等は、 今回もGO/NGOの区別、地域的、宗教的、政治的体制のちがい等を問わず、幅広く追認された。
 この日に発言した各国政府代表らのみならず、マッケイ議長も‘パラダイム・シフト’という言葉を多用し ていたことが示すとおり、障害のある人への教育は、「インクルージョン教育」という大きな流れの中で構成 されつつも、その中で個々の支援ニーズに即した制度や施策、技術、訓練、スタッフ等、ハード・ソフト両面 での配慮が保障されるという新しい考え方の枠組みが、世界レベルでダイナミックに構築されようとしている ことがと伝わってくる、極めて有意義な審議が展開された。

 特筆すべきは、多くの国の政府から、障害のある人の教育の保障に非常に積極的な姿勢が随所に垣間見えた ことである。
 一例を挙げると、教育についての権利実現のために締約国が確保すべき事項として、議長テキス ト・第2パラグラフ(b)で「障害のある人が、可能な程度まで(to the extent possible) 自己の住む地域社会 において、インクルーシブで質の高い無償の初等教育及び中等教育にアクセスすること」としていたが、この中 の‘可能な程度まで(to the extent possible)’という表現を削除すべきとするカナダ提案に対し、多くの国 から賛意が示された。
 また、教育に従事する専門家や職員等向けの訓練に関しても、議長テキストの内容よりさらに踏み込んだ提案 を行う国も目立った。
 教育におけるジェンダー問題の解決に関する条文内での明記を求める意見が、国際障害コーカス(IDC)を中心 に提示されたが、マッケイ議長は、現在も続けられているファシリテーターズ・グループでのより活発な議論 を促した。

 ところで、前述のとおり、あらゆる段階におけるインクルーシブな教育、一般教育制度を受ける権利の保障 については、各国政府から圧倒的な支持が得られたわけだが、日本政府から出された議長テキストに対する主 な発言は、以下のとおり。
パラグラフ1の柱書き「締約国はあらゆる段階におけるインクルーシブな教育及び、インクルーシブな生涯学 習を確保する。」という文中に「可能な限り」という表現を加えよ。
パラグラフ2(a)「障害のある人が障害を根拠として一般教育制度から排除されないこと、〜」にある「一般 教育制度」という文言の「一般」という表現を削除せよ。
パラグラフ2(d)「〜 一般教育制度が障害のある人の支援ニーズを十分に満たすことができない例外的な環境 においては、締約国は、完全なインクルージョンという目標に即して、効果的な代替支援措置が提供されること を確保する。」との議長テキスト案文を、「〜 一般教育制度が障害のある人の支援ニーズを十分に満たすこと ができない環境においては、締約国は、その児童(生徒)の最大利益を注意深く考慮することに基づき、効果的な 代替支援措置が提供されることを確保する。」という表現に改めよ。
パラグラフ4「締約国は、手話又は点字に通じた教員を雇用することにより、〜」としている案文は、個々の児 童(生徒)の状態に合わせて対応できるような表現に改めよ。
 なお、この日本政府の発言後、特殊教育の位置づけについて、今日も現存している実態を直視した対応を求 める意見も他に数か国からあったが、結局、最後まで議論の中心テーマとして扱われることはなかった。

 今回のアドホック委員会において日本政府は、地域社会における自立生活等の保障に関する積極的な発言(提 言)等を重ね、各国政府やNGOから高い評価を受けてきた。しかし、こと文部科学省が管轄する障害児(者)教育に おいては、世界的な潮流に敢えて逆らい、旧来の教育システムの維持のみに執着した態度を取り続けている。
 それがこの日も日本政府発言という形で繰り返し表明され、他国政府から名指しで厳しく反対される結果すら 招き、わが国に対する評価を著しく失墜させてしまった懸念は、払拭できない。今後もこうした事態が放置され 続けるならば、わが国の教育施策全体の膠着化を引き起こしかねず、JDFとして、今後もより強力な働きかけ やロビィング活動が必要であろう