障害者権利条約第24条の翻訳比較 (2007年10月)

第24条 教 育
  日本政府仮訳
第24条 教 育
  川島聡・長瀬修仮訳 2007年3月29日付訳
  政府仮訳の疑問点

1 締約国は、教育についての障害者の権利を認める。締約国は、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、次のことを目的とするあらゆる段階における障害者を包容する教育制度及び生涯学習を確保する。

(a) 人間の潜在能力並びに尊厳及び自己の価値についての意識を十分に発達させ、並びに人権、基本的自由及び人間の多様性の尊重を強化すること。

(b) 障害者が、その人格、才能及び創造力並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること。

(c) 障害者が自由な社会に効果的に参加することを可能とすること。

1 締約国は、教育についての障害のある人の権利を認める。この権利を差別なしにかつ機会の平等を基礎として実現するため、締約国は、あらゆる段階におけるインクルーシブな教育制度及び生涯学習であって、次のことに向けられたものを確保する。

(a) 人間の潜在能力並びに尊厳及び自己価値に対する意識を十分に開発すること、並びに人権、基本的自由及び人間の多様性の尊重を強化すること。

(b) 障害のある人が、その人格、才能、創造力並びに精神的及び身体的な能力を最大限度まで発達させること。

(c) 障害のある人が、自由な社会に効果的に参加することを可能とすること。

インクルーシブな教育を、包容する教育と訳し、趣旨が全く生かされない翻訳に改竄している。

包容】には、包み入れること、広い心で相手を受け入れることという意味があるが障害のある人もない人も同じ人間という前提に立てば、包み入れるとか、受け入れるという言葉は、健常者の側の傲慢さを表している。




2 締約国は、1の権利の実現に当たり、次のことを確保する。

(a) 障害者が障害を理由として教育制度一般から排除されないこと及び障害のある児童が障害を理由として無償のかつ義務的な初等教育から又は中等教育から排除されないこと。

(b) 障害者が、他の者と平等に、自己の生活する地域社会において、包容され、質が高く、かつ、無償の初等教育の機会及び中等教育の機会を与えられること。

(c) 個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。

(d) 障害者が、その効果的な教育を容易にするために必要な支援を教育制度一般の下で受けること。


(e) 学問的及び社会的な発達を最大にする環境において、完全な包容という目標に合致する効果的で個別化された支援措置がとられることを確保すること。

2 この権利を実現するため、締約国は、次のことを確保する。

(a) 障害のある人が障害を理由として一般教育制度から排除されないこと、並びに障害のある子どもが障害を理由として無償のかつ義務的な初等教育又は中等教育から排除されないこと。

(b) 障害のある人が、自己の住む地域社会において、他の者との平等を基礎として、インクルーシブで質の高い無償の初等教育及び中等教育にアクセスすることができること。

(c) 個人の必要に応じて合理的配慮が行われること。


(d) 障害のある人が、その効果的な教育を容易にするために必要とする支援を一般教育制度内で受けること。

(e) 完全なインクルージョンという目標に則して、学業面の発達及び社会性の発達を最大にする環境において、効果的で個別化された支援措置が提供されること。




一般教育制度は通常の教育制度の中での教育を意味するが、教育全般という言葉で全く意味が変ってしまっている。
インクルーシブを包容と訳し、更に文章を切ることでインクルーシブの趣旨を消し去っている



ここでも、通常の教育制度の中での教育の意味を、教育制度一般という言葉で条約の趣旨を改竄している。
インクルージョンを包容と訳するのは、条約の趣旨を全く無視している。

3 締約国は、障害者が地域社会の構成員として教育に完全かつ平等に参加することを容易にするため、障害者が生活する上での技能及び社会的な発達のための技能を習得することを可能とする。このため、締約国は、次のことを含む適当な措置をとる。

(a) 点字、代替的な文字、意思疎通の補助的及び代替的な形態、手段及び様式並びに適応及び移動のための技能の習得並びに障害者相互による支援及び助言を容易にすること。

(b) 手話の習得及び聴覚障害者の社会の言語的な同一性の促進を容易にすること。

(c) 視覚障害若しくは聴覚障害又はこれらの重複障害のある者(特に児童)の教育が、その個人にとって最も適当な言語並びに意思疎通の形態及び手段で、かつ、学問的及び社会的な発達を最大にする環境において行われることを確保すること。


3 締約国は、障害のある人が地域社会の構成員として教育に完全かつ平等に参加することを容易にするための生活技能及び社会性の発達技能を習得することを可能としなければならない。このため、締約国は、次のことを含む適切な措置をとる。

(a) 点字、代替的筆記文字、拡大・代替コミュニケーションの様式、手段及び形態、並びに歩行技能の習得を容易にすること、並びにピア・サポート及びピア・メンタリングを容易にすること。

(b) 手話の習得及びろう社会の言語的なアイデンティティの促進を容易にすること。

(c) 盲、ろう又は盲ろうの人(特に子ども)の教育が、その個人にとって最も適切な言語並びにコミュニケーションの様式及び手段で、かつ、学業面の発達及び社会性の発達を最大にする環境で行われることを確保すること。







障害者相互による支援及び助言という翻訳は本当に正しいのか疑問である。

アイデンティティには、同じ障害のある人の帰属意識(意思)があり、単に同一性と訳するのは不適切である。

4 締約国は、1の権利の実現の確保を助長することを目的として、手話又は点字について能力を有する教員(障害のある教員を含む。)を雇用し、並びに教育のすべての段階に従事する専門家及び職員に対する研修を行うための適当な措置をとる。

 この研修には、障害についての意識の向上を組み入れ、また、適当な意思疎通の補助的及び代替的な形態、手段及び様式の使用並びに障害者を支援するための教育技法及び教材の使用を組み入れるものとする。

4 この権利の実現を確保することを助長するため、締約国は、手話又は点字についての適格性を有する教員(障害のある教員を含む。)を雇用するための並びに教育の全ての段階において教育に従事する専門家及び職員に対する訓練を行うための適切な措置をとる。
 その訓練には、障害への認識、適切な拡大・代替コミュニケーションの様式、手段及び形態の使用、並びに障害のある人を支援するための教育技法及び教材の使用を組み入れなければならない。

訓練を、研修と読み替えて、より簡略なものに変質している。








5 締約国は、障害者が、差別なしに、かつ、他の者と平等に高等教育一般、職業訓練、成人教育及び生涯学習の機会を与えられることを確保する。

 このため、締約国は、合理的配慮が障害者に提供されることを確保する。

5 締約国は、障害のある人が、差別なしにかつ他の者との平等を基礎として、一般の高等教育、職業訓練、成人教育及び生涯学習にアクセスすることができることを確保する。
 このため、締約国は、障害のある人に対して合理的配慮が行われることを確保する。
 

一般の高等教育は通常の高等教育を意味するが、高校教育一般という意味でうやむやにしようとしている。

※日本も2007年9月末に障害者権利条約に署名したという記事がありました。
  ただ、どのように翻訳されているのか、まともに翻訳されているのか心配していました。
  最近になって、政府仮訳が出されたので、取りあえず第24条を読んでみました。
  やっぱり、文部科学省の役人の考えることは、この程度のことなんだと思いました。
  本当に人を莫迦にしている。

  現状を維持するために、言葉でごまかそうとする姿は哀れですらあります。
  例えば、一般教育制度を、教育制度一般に変えたら、全く意味が変わってしまいます。
  国連のアドホック委員会で真剣に議論されていたことなんか無視して、都合のいいように解釈している。
  この高度情報通信の時代に、誰もが本当の情報に接することが出来る時代に、何をやってるんでしょうか。
  もうちょっと、国民の役に立つことをやったらと思いました。