二分脊椎症とは |
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二分脊椎とは、脊髄と脊柱の生まれつきの異常のために上下肢の神経麻痺(足が思うように動かせなかったり、感覚が十分できない状態)、膀胱直腸麻痺(排尿・排便障害:尿、便の排泄がうまくコントロールできない状態)を生じる病気です。 二分脊椎には大きく分けて2種類あります。 出生時に脊髄神経の一部が背中の皮膚の欠けた部分から外に露出した開放性二分脊椎と、正常な皮膚に覆われている閉鎖性二分脊椎です。開放性二分脊椎では、同時に脳神経系に水頭症・キアリ奇形などを伴うものが多く、新生児のうちに開放している脊柱管の手術が必要です。閉鎖性二分脊椎は、無症状なことが多く成長してから別のことで撮影したレントゲン写真などで偶然に見つかる事もあります(潜在性二分脊椎症と言います)。
原因 :二分脊椎の原因は分かっていません。遺伝する病気ではないようですが、黄色人種に少なくかつ程度も軽いけれど、ところが白人では多くかつ程度も高度です。白人特に米英では重要疾患の一つです。
予防 :二分脊椎には生まれつきの病気ですから、予防は難しいのですが、最近イギリスでは妊娠する頃に葉酸を飲むことにより、二分脊椎の発生率が低下したという報告があります。葉酸とはビタミンB群の一つで緑黄色野菜、レバー等に多く含まれます。神経管は胎芽期の妊娠24日〜28日に閉鎖しますが、この時の細胞分裂に葉酸が重要な役割を持つと言われています。 出生前診断といって、妊娠16〜20週の頃に母体の血液や羊水と超音波の診断を組み合わせて赤ちゃんが開放性二分脊椎かどうかの診断ができる検査もあります。 日本における二分脊椎の子供のケア、親のケアについて、“二分脊椎症児者を守る会”が発足されて各地で月例会やキャンプなどを実施され交流を計ってあります。*障害の度合いにより身体障害の申請や医療補助が受けられます。 全国二分脊椎症児者を守る会:東京都町田市金森1005-12-2、FAX0427-25-0043 |
二分脊椎症の症状
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脊髄の異常部位によって症状が大きく異なります。つまり脊髄と大脳を結ぶ神経の経路がどこで傷害されるかによって症状が違ってきます。ところが、排尿・排便障害はどの部位であっても出現します。なぜなら、排尿排便に関係ある神経は脊髄の最下端にあるので、脊髄のどこが悪くても、大脳との排尿排便の神経経路が障害を受けるからです。そのために二分脊椎の方は排尿・排便障害で困っておられます。 |
二分脊椎症の検査
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神経学的診察:手足の感覚や運動の異常を見ます。腱反射などの異常を見ます。 脳と脊髄・脊椎の形態を見る:頭部X線撮影、腹部X線撮影、MRIスキャン(核磁気共鳴コンピュータ断層撮影)、CTスキャン 排尿異常を見る |
二分脊椎症の治療:特に排尿障害
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二分脊椎のお子さんは、それぞれの障害に応じて生まれた直後から専門的治療を受けます。手術、矯正ギプス、下肢装具、間歇自己導尿、他いろんな障害に合わせて整形外科、脳神経外科、泌尿器科にて治療しますので、大きな問題なく育ちます。医学的治療が必要で育てる為、普通 のお子さんより手がかかりますが、大多数の二分脊椎のお子さんは、普通のお子さんと大きな能力差がない学校生活を送っています。 排尿異常の治療: 以前は若くして腎不全で死亡する症例がほとんどでしたのでそのために腎臓の保護が第一に必要でしたが、近年では腎臓の保護は一応確立しており、尿失禁対策が最大の要素です。 弛緩型の場合: 痙性型の場合: |
当院での潜在性二分脊椎症例
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症例: 7歳女子。膀胱に尿が溜った状態で、自力では尿が出ずに来院されました。管(カテーテル)で尿を取り、膿でドロドロとした濁った尿が200m出ました。直腸から下行結腸にかけて多量 の便がたまり、巨大結腸のようでした。潜在性二分脊椎症であり、両下肢の神経学的な異常はなく、足の麻痺やしびれはありませんでした。巨大結腸のように思えていましたが、その後は正常の排便がありました。留置カテーテルを入れたままの状態が半年間続き、その間カテーテルは2週間に一度の交換をしていました。当初は交換を嫌がり暴れてナース二人がかりで押さえて交換していました。その後本人の病気に対する自覚も出現し、自分で管を入れて尿を出す方法(間歇自己導尿)を指導できるまでになりました。その後自己導尿が上手にできる様になったころに、自力での排尿量 が次第に多くなり、下腹部を押さえて出す腹圧尿だけで良くなりました。現在は普通 の小学生として学校生活を送っています。現在も当院に通院されていて、自分で排尿コントロールが出来る様になっています。 症例:25歳男子 佐賀整肢学園において定期的に二分脊椎小児の腎検査、排尿機能検査を行ってきました。膀胱は弛緩型ですが、膀胱の壁が固くて広がりにくく(コンプライアンスが低いと言います)尿を貯めにくい構造です。このために小児期から抗コリン薬などを内服するように申しておりましたが、なかなか来院できず、今に至りました。腹圧排尿中ですが尿失禁が多くて、大部分の尿はおむつに漏れている状態です。さらに最近は腎盂炎をたびたび繰り返すので、ついに膀胱を広げるための膀胱拡大術を予定するようになりました。現在佐賀医科大学での手術待ちです。 |
佐賀県における二分脊椎症
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佐賀整肢学園、子供発育センターにおける取り組み 院長(小嶺信一郎)は昭和58年から現在も佐賀市の佐賀整肢学園において定期的に二分脊椎小児の腎検査、排尿機能検査を行い健康管理、尿路管理を続けております。小嶺は総合脊髄損傷センター、佐賀医科大学時代から泌尿器科いまりクリニックを開業後もずっと一貫して佐賀整肢学園に訪問し、外来、入院の患児を診察しております。二分脊椎患者はいままでに約60人です、大部分は腰椎以下の二分脊椎症で、ごくわずか数人が胸椎以上の二分脊椎です。このことから、膀胱麻痺は弛緩型がほとんどであり、痙性型はごくわずかです。 |
文献
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1. 椎名篤子ら:二分脊椎症の手引き-出生から自立まで-、全国二分脊椎症児者を守る会、1996 |