前立腺肥大症  いまりクリニック

 前立腺肥大症とは

 前立腺は膀胱の出口にあり尿道を取り巻いている栗の実くらいの大きさのものです。精液を作っていますので、男にしかありません。女性の前立腺肥大症は存在しません。
この前立腺の尿道近くのtransition zoneから前立腺結節が発生、増大して大きな結節状になるという、高齢男性に多い疾患です。前立腺肥大腺腫が加齢につれ増大することが解剖や手術での検討で明らかになり、さらに疫学的にも指摘されています。
  Berry (USA)によると1000例以上の解剖例における組織検査の結果、前立腺結節が40歳代で20%、50歳代で40%、60歳代で70%、70歳代で80%に発見されているそうです。 つまり30歳台ですでに前立腺肥大症は始っているようです。


前立腺肥大症の症状
初期

頻尿:排尿の間隔が短くなること、1回の排尿量が少ないこと。つまり、膀胱に少しでも尿がたまると排尿したくなる。
切迫尿意排尿しようという尿意を感じたらすぐに排尿しないと尿がもれそうになること。つまり排尿を我慢できないこと。

夜間頻尿夜就寝後に何度もトイレに行きたくなること、時には1時間ごとに行く。この時には膀胱にあまり尿が貯まっていなくても、尿意を生じます。
尿が膀胱にたくさん貯まっていれば尿意を感じて目がさめますが、これは頻尿ではなく多尿です。夜に多量 に尿が出ることは夜間多尿です。この場合は当然何度も排尿に行きますが、多尿であって頻尿ではありません。

中期

上記の症状に加えて以下のような症状が出現します。

排尿困難尿がなかなかでない。トイレに立ってすぐ尿がでない。尿の勢いがない。
残尿感排尿後も尿が残ったような気がする、実際に残尿がある。

末期

上記の症状が次第に進んで以下の症状も加わってきます

尿閉排尿困難が強くなりついに 尿がでなくなり、膀胱内に尿が充満すること。下腹が膨れてとても苦しい。しかし、残尿が少しづつ永年に亘って貯まってゆっくりと膀胱が過伸展してしまう場合は知覚が低下したり麻痺するので、苦しくなく本人も気付かないことがあります。

症状の点数としてIPSS
l993年、国際学会で前立腺症状評価表IPSS(INTERNATIONAL PROSTATIC SYMPTOM SCORE)が作成されました。症状を排尿相と蓄尿相に分け,それぞれ7項目につき5段階で表示し、さらにその時点の状態がそのまま続くとしたら生活にどう支障を与えるかのQOL評価も勘案したシステムです。

IPSSの評価表

どのくらいの割合で次のような症状がありましたか。 全くない 5回に1回の割合より少ない 2回に1回の割合より少ない 2回に1回の割合くらい 2回に1回の割合より多い ほとんどいつも
 この1ヶ月の間に、尿をしたあとにまだ尿が残っている感じががありましたか。
0
1
2
3
4
5
 この1ヶ月の間に、尿をしてから2時間以内にもう一度しなくてはならないことがありましたか。
0
1
2
3
4
5
 この1ヶ月の間に、尿をしている間に尿が何度も途切れることがことがありましたか。
0
1
2
3
4
5
 この1ヶ月の間に、尿を我慢するのが難しいいことがありましたか。
0
1
2
3
4
5
 この1ヶ月の間に、尿の勢いが弱いことがありましたか。
0
1
2
3
4
5
 この1ヶ月の間に、尿をし始めるためにお腹に力を入れることことがありましたか。
0
1
2
3
4
5

 
0回
1回
2回
3回
4回
5回
 この1ヶ月の間に、朝夜寝てから起きるまでに、ふつう何回排尿をするために起きましたか。
0
1
2
3

4

5

前立腺肥大症の診察
指による前立腺触診digitaI rectal examination(通称DRE:直腸診)が必要です。肛門からの指挿入によって、前立腺の大きさ、堅さ、しこり、圧痛、不整,非対称性などの所見がわかるので、前立腺炎、前立腺癌との鑑別 診断ができます。


前立腺肥大症の検査

前立腺の形と大きさを調べます

逆行性尿道造影造影剤を尿道内から膀胱に注入し尿道の様子を調べます。前立腺肥大症があると尿道が圧迫されたり、延長します。
腹部超音波検査
下腹から超音波波を当てて前立腺の大きさや形内部の様子を調べます。さらに膀胱内の残尿の量、腫瘍や結石の有無をしらべます。
経直腸超音波検査:
直腸内に挿入した超音波検査です。下腹から超音波波を当てる検査では距離が遠いのですが、直腸からですとすぐ近くですので、前立腺の内部がより鮮明に判明しますので、さらに詳しく前立腺の大きさや形内部の様子を調べることができます。

排尿の状態を調べます

尿流動態検査:膀胱に水を注入しながら膀胱の容量と圧力を測定するるものです。膀胱や尿道の機能やその異常がわかります。
残尿測定排尿直後の膀胱内の尿量を調べます。正常では残尿は0です。以前は膀胱内に直接管を挿入して調べていましたが、今では超音波である程度正確に分かるようになりました。
尿流量測定
尿の勢いを調べる検査です。機械に排尿すると一秒間に出た尿の量や最大の尿流が分かりますので、尿の勢いを客間的に把握できます。

 

前立腺肥大症の診断と治療方針の決定

症状や検査結果から見た重症度

IPSSでみると1-7点が軽症、8-19点が中等症、20以上が重症
残尿測定尿流量測定でみると最大尿流量が15ml/秒以上で残尿が50ml以下では軽症、最大尿流量が5-15ml/秒以上で残尿が50ml以下では中等症、最大尿流量が5ml/秒以下で残尿が50ml以上では重症
超音波検査で前立腺体積が20ml以下では軽症、前立腺体積が20-50ml以下では中等症、前立腺体積が50ml以上では重症

重症度に応じて治療法をきめます

軽症薬による治療
中等症:薬に低侵襲治療法を加えます
重症:手術療法を行いますが、心臓が良くない等手術に耐えられない方や手術がどうしても嫌だとされる方には低侵襲治療法やカテーテル、ステント、自己導尿等を組み合わせて行います。

前立腺肥大症の治療

前立腺肥大症の治療のうち薬物治療
植物エキス剤:エビプロスタット、パラプロスト、 セルニルトン
症状を緩和する作用があり、夜間頻尿・残尿感・切迫尿意などを軽減し、時には症状が消失するほどの効果 もあります。前立腺そのものを小さくするほどの効果は少ない。副作用が少なく、使いやすい薬です。
漢方薬:八味地黄丸、牛車腎気丸 :上記の薬物のように症状を緩和します。症例によっては非常に効果 があります。量が多いのが飲みにくいこともあります。
交感神経抑制剤(α-ブロッカー):ミニプレス、ハルナール、 フリバス、デアタントール :膀胱の出口が前立腺によって塞がれて狭くなっているので尿がでにくいが、ここを広げる作用があります。排尿効率がよくなり、尿の勢いがよくなります。全身の血管も広げるので血圧が低下するため、起立性低血圧を生じ立ち上がるときふらふらすることがあります。
抗男性ホルモン剤 :酢酸クロルプロマジン(商品名プロスタール)、アリルエストレノール(商品名パーセリン)など。
前立腺自体が男性ホルモンの標的器官です。つまり男性ホルモンが前立腺を発育させ、精液を分泌させます。そこで男性ホルモンを抑制することで、前立腺を小さくしようという治療法です。これらの薬は抗ゴナドトロピン作用も併せ持っているので、視床下部からのLH-RHが低下するので、LHも男性ホルモンも低下します。前立腺そのものを少し小さくする作用があります。しかし、副作用があり、女性化し、勃起障害になることがあります。食欲がでてくることで太り、心臓に負担がくることもあります。

前立腺肥大症の治療(当院での保存療法:手術しないで治療すること)

手術をしないで高温度や超音波等を利用して前立腺肥大症を治療するもので、手術よりも体に与える影響が少ないので、低侵襲治療法といい、手術療法と区別しております。

高温度治療
高周波による

尿道または直腸に挿入した器具から高周波(micro wave)を出し、電子レンジのように前立腺を50-70度に1時間位 熱して治療します。1-2ヵ月後に前立腺が縮小し、症状が軽減します。1回22万円位ですが、保険適応があります。

いまりクリニックでは入院でも外来でも可能です。高周波を出す細い管を尿道から膀胱内まで挿入する時が痛いので、人によっては施行時に痛くないように仙骨麻酔をを使用します。
当院ではオリンパス社製エンドサームUMW-1を使用して、平成10年度から平成13年夏までに約200数人に治療をしております。そのうち約100人の前立腺肥大症における効果 を検討すると、客観的な改善もある程度ありましたが、自覚症状の改善特に頻尿・夜間頻尿にはかなり効果的でした。
この方法は尿道や前立腺を低温やけどさせることですので、副作用として、一時的な出血や、尿が出にくくなることがあります。尿が非常に出にくくなった場合は数日間管を挿入して尿を出します。

レーザー治療 尿道内に挿入した内視鏡カメラからレーザー光線を前立腺に照射して前立腺を焼き、蒸散させて肥大症を縮小させるものです。手術で切除するよりも出血が遥かに少なく、短時間ですみます。しかしレーザー光線を前立腺に照射する際に痛みがありますので、麻酔が必要です。レーザー光線を導く光ファイバーに数種類ありますが、効果は同様です。手術より手軽で、効果は手術と同等かそれ以下ですが、手術が受けられないような人(重い心臓病・肺機能低下・出血しやすい人など)にも可能です。副作用としては非常に稀ですが前立腺外に穿孔することがあります
尿道ステント 前立腺部の尿道に2-6cmの短い管(ステント)を挿入し、狭くなった尿道を広げて排尿を改善するものです。数種類のステントがあります。尿道カテーテルのように体の外に出ていません。また交換の必要もありません。ステントの挿入には技術的には困難は少ないのですが、その後微妙に移動することが多いので、適切な位 置に挿入することが難しい場合もあります。副作用としてステントに結石が付着したり、尿感染が続く場合があります。
留置カテーテル
バルーンカテーテル
前立腺肥大症が進行して膀胱の出口が塞がれ、いよいよ尿がでなくなった場合、狭くなった尿道を通 して膀胱の中に管(カテーテル)を挿入し、尿を出すという方法です。尿道カテーテルは2-4週間で交換し膀胱内を洗浄します。カテーテルをしたまま風呂に入ることもでき、普段とあまり変わらない生活を送れます。 しかし、副作用として長期間の留置は結石形成しやすくなり、慢性膀胱炎を生じることになります。
自己導尿
尿がたまった時点で自分でカテーテルを膀胱に挿入しその都度尿を出す方法です。留置カテーテルは、副作用として長期間の留置は結石形成しやすくなり、慢性膀胱炎を生じることになります。この自己導尿では入れっぱなしではありませんので結石の発生や感染による慢性膀胱炎の可能性が遥かに少なくなります。しかし、肥大した前立腺は少しの刺激で出血しやすくなっておりますので、まれに出血をすることがあります。
超音波治療
高温度治療の一種ですが、低周波の変わりに超音波を前立腺に当てて前立腺の内部を高温度化して肥大症を治療するものです。当院ではまだ行っておりません。

前立腺肥大症の治療(当院での手術療法)いまりクリニック
経尿道的手術
内視鏡カメラを尿道から挿入して、肥大した前立腺を切除する方法。少しずつ切除するので、その間出血があります。そのためにあまり大きな肥大症には無理があります。一般 に肥大した前立腺が50グラム以下の場合にこの方法を行います。前立腺とその周囲は血流が多いので手術中とその後の出血をいかに少なくするかということが最大の重要点です。そこで、少ないのですが、手術中や手術後に輸血が必要な方がいます。
当院ではマスクによる全身麻酔を行って寝ている内に手術が終わるようにしております。さらに脊髄麻酔(硬膜外麻酔)を行ってそれを数日間挿入し、手術後も痛くないように心掛けております。
開腹手術
下腹を切開し、膀胱を開いて前立腺を摘出します。大きな前立腺に向いています。一般に肥大した前立腺が50グラム以上の場合にこの方法を行います。当院での最大は150グラムです。手術後は1-2週間膀胱内に管(カテーテル)を挿入しております。当院では手術後2-3日間は脊髄麻酔(硬膜外麻酔)を連続して行い、無痛状態を目指しております。手術後に痛みがなくなることで、血圧などが安定し、術後の出血やトラブルが非常に少なくなります。それでもごく一部ですが、手術中や手術後に輸血が必要な方がいます。

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