幸平遺跡発掘調査速報

 所 在 地:佐賀県西松浦郡有田町幸平二丁目1521・1522番地
 調査主体:有田町教育委員会




● 2月7日(水) 



  本日は朝から雨。発掘調査は中止である。やっとすっきりと発掘を休めるので、雨だというのになぜかちょっと嬉しい。昨日までは、夜中じゅう降って朝方になるとぴったりと止んでしまう日が続いた。通常の発掘調査だと、今日も何とかできてラッキーというところだが、今回だけはついでに朝まで降ってくれていたらと思ってしまう。水はけが悪い場所なので、夜中に雨が降ると、半日近くは水の除去に追われる。その上、ぐちゃぐちゃの泥を塗りたくっているようなもので、かえって土層が分かりにくくなってしまうからだ。2・3日すっきりと晴れてくれないかな〜というのが実感である。

 ということで、とりあえず本日は、昨日までの進ちょく状況をお知らせしておきたいと思う。



 2月2日からはじめた調査は、まだ昨日が3日目である。初日から表面を覆った土を除去する作業を進めていたが、昨日の午後一にはほぼ完了した。この表面の層も、本来は18世紀代の遺存している層と推定される。しかしぐちゃぐちゃの土だけに、人が踏んだだけでも表面の遺物が埋まり込む状態であるため、ちゃんとした層として扱うにはちょっとためらいが残る。
 昨日は、表土剥ぎの完了後遺構の有無を確認するため、もう一度表面をきれいに削って精査を行った。通常は土質が異なるため、掘ってる最中にもおよその見当は付くものだが、ここだけはどろどろ過ぎて掘ってる時には分からなかった。幸運にも、昼頃には日も差しはじめ部分的には土も乾いてきたため、数箇所で柱や杭ないしはその穴が発見された。まだ実際に柱穴などは掘ってはいないが、出土遺物などから、おそらく18世紀前半頃の建物があったものと推定される。
 


最上層除去後の幸平遺跡



 

 とりあえず、その掘削の最中に出土した色絵製品の例。二つとも合子の蓋である。ただし、本来この土層時代のものではなく、17世紀後半の製品と推定される。ちなみに18世紀以降の色絵は、やはりほとんど出土しない。

 

 

 

 

 

*画像をクリックすると拡大画像が見れます


色絵合子蓋

 しかし、ちょっと対応に苦慮するものも発見されている。先日、A・B−1区付近で火災層のような焼土層が発見されたことをお知らせしたが、よく調べてみると、どうみても火災層とは考えにくいのだ。炭層や灰層、表面が黒色化した真っ赤な焼土の層などが、薄く、しかも交互に何重にも堆積しているからである。火災層やその整地層では、おそらくこんな堆積にはならないだろう。かまどの可能性はないかと考えたが、焼土の範囲が広すぎるし、第一焼けすぎている。
 精査を進めるにつれ、その焼土の近辺の土には炭が多量に含まれ、瓦片が多く含まれていることが分かった。有田の近世の家屋は、瓦は火を使う部分や蔵などだけに用いている場合が多く、幕末の安政六年(1859)の絵図でも、瓦葺きでない家が一般的である。もちろん絵図に描かれたこの場所の建物も、瓦は用いていない。つまり、蔵とは考えられないため、やはり火災ではなく火を使う遺構であった可能性が高い。


A・B−1区付近に広がる焼土層



  さらに、焼土周辺の土には瓦以上に多く含まれている遺物がある。初日にも多く出土することに触れたが、それは素焼片である。無文のものが大半を占めるが中に呉須で文様を描いたものもあり、18世紀前半頃の製品であることが分かる。
 火を使う遺構で、素焼片が多く出土するもの。ごく自然な発想としては、あるいは素焼窯かということになろうかと思う。たしかに、こうした焼土の堆積状況は、あえてこれまで体験した中で最も近いものを探せば、見慣れた登り窯の構築面や作業段面である。
 ちなみに、素焼窯はこれまで有田では発見例がないが、絵図などを参考にすれば、工房の敷地内にあり、登り窯の1室を切り取ったような形状であった可能性が高い。つまり、素焼窯の条件としては、かなり揃っていると言えるだろう。
 しかし、問題点もある。焼土の広がりや部分的な状態をいくら観察しても、調査区外へも伸びていることもあってか、今のところどうしても、それらしきプランが読み取れないのだ。しかも、発見場所が前面の道路に近接しすぎで、位置的にもすっきりこない。発見例がないので何ともいえないが、工房内の窯といえば、イメージ的には赤絵窯のように敷地の奧寄りに設置されているようなものを想像してしまう。



素焼片の散布状況


 結局、考えがまとまらない状態でタイムオーバー、昨日の作業を終了した。まあ慌てずゆっくりと考えようといいたいところだが、実は、困ったことに、土層的には、この焼土面が調査区全体の中でも最上層に位置する。つまり、ここの処理が終わらなければ、正攻法としては、次の層へと進めないのである。明日の作業をどう段取りするか、まだ、考えはまとまっていない。
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