今日の有田の陶磁史研究では、窯跡の発掘調査成果が重要な基礎資料となっている。この場合の窯跡とは、一般的には登り窯のことである。そこで、ここではその理解に欠かせない基本事項や発掘調査の方法などについて、簡単に触れておくことにする。
(A)窯跡に関する基礎知識編 |
1.窯の種類 |
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一般的に窯跡という場合には、今日では本焼き用の登り窯を指すことがほとんどである。製品の生産過程では、ほかにも素焼き用の素焼き窯や上絵焼付用の赤絵窯などが用いられるが、これまでのところほとんど実態は明らかになっていない。 |
登り窯の窯焚き風景 |
2.登り窯の形状と規模 |
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肥前で用いられた登り窯は、当初から窯の内部を隔壁で小さな部屋に区切っていたことに特徴がある。こうした窯は、日本では肥前ではじまり、次第にほかの地域へと伝わっていった。当初は割竹式と称される竹を半裁したような形状の窯が用いられたが、江戸初期にはすでに連房式と称される団子を連ねたような形状のものが一般的になる。 |
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3.登り窯の内部構造(1) |
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登り窯の内部は、隔壁によって小さな部屋に区切られている。各焼成室内部は、前方から薪を焚く火床と製品を詰める砂床に仕切られており、連房式の登り窯では、通常その境に粘土製の火床境が造られている。また、火床の片側の側面には、出入り口を兼ねた焚口が設けられており、そこから薪を火床に投入する。製品を詰める部分を砂床と称すのは、床に並べた窯道具などが熔着しないように全面に砂が敷かれているからである。 |
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4.登り窯の内部構造(2) |
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登り窯の各焼成室間は、通常は階段状に床が段々に高くなっている。この段差は割竹式では0〜30cm前後と低く、しかも焼成室によるばらつきは比較的少ない。しかし、連房式の場合は地形に応じてばらつきが大きく、一つの窯でも0〜1m以上までさまざまである。 |
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5.製品の窯詰め |
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製品を焼成する際の窯詰めには、いくつかの方法がある。肥前の場合には、基本的に朝鮮半島の李朝時代の窯場と共通しており、製品のレベルによって用いられる方法が異なる。 |
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6.物 原 |
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登り窯は、山の斜面に築かれる。通常、側面に設けられた各出入り口の先は谷になっており、焼成に失敗した製品はそこに投棄される。したがってこの谷には製品がたくさん散らばっているため、一般的に物原と呼ばれている。 |
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(B)発掘に関する基礎知識編 |
1.窯跡資料の特徴 |
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窯跡は、生産、流通、消費という一連の経済システムに当てはめれば、生産遺跡ということになる。また、同様に生産の一連の工程から言えば、成形を行った窯焼き跡や上絵付けを行った赤絵屋跡なども生産遺跡に含まれる。しかし、窯焼きや赤絵屋の工房跡では、生産が行われると同時に、そこで日常的に生活が営まれている。つまり、生産遺跡であるとともに、一面では消費遺跡でもあるのだ。ところが登り窯は、製品の本焼きの際のみに用いられる非日常的な空間なため、消費遺跡としての性格は極めて弱い。 |
登り窯の発掘風景 |
2.年代把握の方法(1) |
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もちろん登り窯の調査を行えば、さまざまな情報が入手できる。しかし、これをすべて説明はできないため、ここではひとまず出土する製品の年代(つまり窯の操業年代でもあるのだが)の捉え方について説明してみることにしよう。 |
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3.年代把握の方法(2) |
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窯跡の調査で、もちろんそこで生産されたすべての製品が出土するわけではない。あくまでも失敗して廃棄されたものの中で、たまたま発掘した場所に残っていたものだけである。では、なぜ、これで出土していない製品の年代まで分かるのだろうか? |
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4.年代把握の方法(3) |
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こうした要素の比較検討は、同じ要素を持つ資料が多いほど確実性が増す。また、同じ要素の製品を内包する土層の発掘例が増えるほど、一時期の要素のバリエーションを鮮明に捉えることができる。そのため、次の過程として、個々の窯内の比較だけではなく、他の窯の発掘資料とも比較を行うのである。 |
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5.年代把握の方法(4) |
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ところが、これだけでは実際の年代は不明のままなのがお分かりだろうか?何が何より古いなどという順番が分かっただけである。こうした年代は前後関係を表すため相対年代と言う。一方、1999年などという実際の年代は、実年代、暦年代などと呼ばれる。通常用いられるのは、この実年代である。こうした実年代を探るには、さまざまな方法が用いられる。というよりも、使えるものは何でも使って、この相対年代の各区分に実年代を当てはめていくのである。 |
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6.陶磁器の年代が分かれば… |
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このようにして陶磁器の年代が分かるということは、年代そのものが知りたい人にとっては、それ自体意味のあることだ。しかし、たとえば考古学のほとんどの時代の研究が、まずはやきものからスタートするのには、その他にもそれなりの理由がある。 |
(小溝上窯跡/有田町) |
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