第857回 北風と太陽

 
平成21年 6月 25日〜

妙念寺電話サービスお電話 ありがとうございます。

こんな文章を 読みました。

「念仏の話は、どうも人間を消極的にしてしまう。やれ、自我意識を見つめろとか、
  自力でなくて 他力だとか、そんなこといっていた日には、この厳しい生存競争の
  世の中を、生き抜くことはできやしない。もっと積極性のある教えでなくちゃ」
 
 とか、


「念仏は どうも内攻的で、たくましさ、力強さに欠ける。もっとパアッと調子の
  いいふうにいかないものか」といった声をよく聞きます。

ある青年商工会議所の集会で、終わってからメンバーが、
「何か、あやまって
 頭を下げる話ばかりで、たよりない」 といった批評を
されました。が、


私にいわせてもらえば、そのくらい人間とは、おのれをたのみ、内観が
苦手なのでしょう。

パアッと調子のいい話にばかり飛びつきたい、外向きの心しか持ち合わせて
いないのでしょう。

ひとつ、「力」 ということを考えてみますと。
その時いつも思い合わせられますのは、イソップ物語の「北風と太陽の話」です。

北風が太陽に力自慢をして 「どちらが強いかくらべてみよう。あの道を行く
旅人のマントを脱がせたほうが勝ちだ」 と、まず北風が全力をあげて
吹きまくります。


道の旅人は、「あ、ひどい風だ」と、あわててマントをかき合わせて、
風に向かって突っこむように歩きつづけました。


かわって太陽は、いつものようにジワジワと照りつけました。
そのうち旅人は、「あつい日になった」と、マントを脱いで歩きはじめた、
という話です。

ちょっと見には、北風の方が調子よく、かっこいい。太陽はたよりなくて、
あんまり景気よくないのです。

この有名な寓話は、人間すべてのあり方について、真であると思います。
北風の生き方は、「そうしなければならぬ」という訓戒・教条的な押しつけです。

それに対して太陽は、「そうせずにおれぬ」という、自然のなりゆきを
引き出す、自然法爾のあり方です。

念仏はこちらのほうだという、比較選択の話でなく、最後にはこの道しか
ないのではないですか。

「おれのあとをついてこい。悪いようにはせん。おれが引き受けたといったら、
 おれのいうとおりにすればまちがいないんだ。それで文句あるか」
といった調子の、強気なリーダーがあります。


社長さんたちの経営講習会などのアンケートを見ますと、望ましい社長像として、
決断力、統率力、指導力をもちたいという指向が多いらしいです。


みんな北風型社長を思い描いているのではないでしょうか。

親鸞さまはちがいました。

・・・・ 愚身の信心におきてはかくのごとし。このうえは、念仏をとりて
   信じたてまつらんとも、またすてんとも、面々の御はからいなり・・・・・・。
  (歎異抄 第2章)と、相手の自主的判断を尊重し、何ひとつ強制しません。

「私はこう信じます。しかしあなたが私と同じ道をとるか とらないかは、
  あなたの決断ひとつです」 と、突き放します。
突き放して、何かめんどうみが
 悪くて、水くさいようだけど、じつはこれが
一番親切で、それゆえ説得力の
 ある呼びかけ、はたらきかけではないかと思います。

「お父さんのいうとおりにしておれば、まちがいないんだから」という親と、
「お父さんはこう考える。しかしお前がどう決断するかはお前の自由だ。
 自分で決めなさい」という親と、子どもはどちらに信頼感をもつか、

 親の意見を親身になって聞くかを、よく考えてみたいと思います。

古い川柳に、  
 おれが真似するなと親は子に意見(「誹風流多留」)というのがあります。

私は、これはすばらしい親子の情景をとらえているなと思います。
「おれにはお前に意見する資格などないけれど、お前、おれのしてきた
 ことの二の舞だけはしてくれるなよ」と。世間並のカミナリ親父とは
ひと味ちがった意見、お説教です。

そこにはしみじみとしたあたたかみがこもっています。
子どもの上座にすわりこんで、声はりあげる北風型でなく、
息子のすぐ横に同列に、いやむしろ下座にすわって、自分の非を認め
ながら語りかける、こういう姿が、真に子どもの心を打つ “親ごころ”
ではないでしょうか。

太陽型の親のあり方ではないかと思います。
こんな親をもつ子はしあわせです。

  という文章です。


自分の非を認めながら いつも下座にすわって ともに考える 
そんな親でありたいと思いますし そんな親さまに いつも見守られ 
はげまされ 導かれているのだと 南无阿弥陀仏を聞きながら

有り難く 味わわせていただいています。

妙念寺電話サービス お電話ありがとうございました。
次回は、7月2日に新しい内容に変わります。

                  亀井鑛著 暮らしに生きる念仏  有斐閣発行より

         


           私も一言(伝言板)