第980回 ピーコちゃん  〜人形を抱くおばあちゃん〜

平成23年 11月3日〜

いつも人形を抱いて、降誕会の余興では、カラオケで 愛敬たっぷりに
歌を披露されていた あのおばあちゃんが、ご往生されました。

過去帳には、30年近く前に亡くなられたご主人のお名前はあるものの、
ことによると、赤ちゃんを亡くされ それが忘れられず、人形をいつも

抱いておられるのではないかと想像するものの、事情を、詳しく
聞くことが出来ずにいました。

ずっと、一人住まいで、道路の拡張とか、都市開発などで 何度も転居を
繰り返されましたが、ビーコちゃんという名前のセルロイドで作られて

いるであろう 年代物の人形がいつも一緒で 実の子に話すように話しかけ
法座の前、おトキの時には、人形の口元にお料理を運び、
食べさせるような仕草をされていた、みなさんの印象に残っているあの方です。

 ところが、法座のご案内のはがきも宛先不明で返ってくるようになり、
連絡がとれなくなっていました。
老人施設に入られたとの噂を聞いていましたが、突然、姪御さんという方から
連絡で、枕経にいくことになり、

そこには息子さんや親戚の方が数人おられ、ご家族があったことに驚きました。

息子さんは 関西から駆けつけられたということですが、お母さんとは

姓が違います。
尋ねもしないのに、息子さんは 自分が成長してから この人は、
再婚したので 名前が違うんですと、話してくださいました。


「あのお人形は 息子さんの代わりだったのでしょうね。」と言うと

 「自分は、小さいときから祖母のところで成長したし、
  この人とは ほとんど 生活したことが ないんですよ。」と。

人形は 女の子だし、自分とは関係ないでしょうと、どことなく迷惑そうに

つぶやいて おられました。

ある日、お母さんを尋ねたら そこに男の人がいて一緒に生活していた、
その時のショックが いまだに抜けきらない感じでした。


ちょうど、仏さまの苦行の話を読んでいましたので、
「如来はすべての人々のために、常に慈悲の父母となってくださる。

  よく知るが良い。あらゆる人々はみな如来の子なのである。
  世尊が大慈悲をもって衆生のために苦行を修められるようすは、
  ちょうど人が 魔ものにとりつかれて、錯乱してさまざまなことを
  するようである。」

  と説かれていますと、
 
 子どもの方は気づかないものの、仏さまは、親の方は 子どものために、
 衆生のために 狂気のように、努力し苦労して育ててくださるものだと
 お話しておりましたら、もう60近いであろう息子さん
 独身でお子様もないということでしたが、お葬式も済み、お別れする時には、
 お母さんが抱いていたお人形さんは、自分の代わりであったかもしれないと、
 思われた様子が どことなく感じられました。
 気づくと、息子さんの名前には 一字 「輝く」の字がありました。


  親のこころ、子知らず、仏のこころ、衆生知らず

  親の思いが すこしでも味わえてくると、人生はまるで違って
  見えてくるということを、味わえる、数日間でした。


  妙念寺電話サービス お電話ありがとうございました。
  次回は、11月10日に新しい内容に変わります。

         


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