峠の茶屋100000Hit記念SS



 
 
 
 

ブロロロロ……

ブロロロロ……

ブロロロロ……
 

「耕一〜、何処に行くんだよ〜?」
「う、うるさい。ちょっと話し掛けるな!」
「気になるだろ〜。教えろよ」
「着くまで待ってろって。事故で二人とも死にたくなかったらおとなしくしてろっ!」
「全く、慣れない事するから…」
「う、うるさいっ!黙ってろ!!」
「はいはい。分かりました」

あたし達は今耕一の運転する車の中にいる。
あたし…柏木梓…と耕一の二人っきりだ。
春休みだから耕一の家に遊びに行ったら免許を取ったという耕一に連れられてドライブに連れ出された。
まだ大学生なのでバイトを増やして教習所に通ったらしい。
千鶴姉に相談すればよかったのにと言ったら
『そこまで千鶴さんを頼りには出来ない』
と言っていた。
…という訳で耕一が車を持っているわけもないのだが今日に備えて耕一がレンタルしてきたらしい。
たぶん、これもバイトを増やして…。
しかし、免許取立てで事故をしないのが不思議なのだが…。
耕一は運動神経『は』いいはずなのに車の運転が下手だ。
このまま話していれば多分本当に事故をするだろう…。

「…それにしても、本当に運転の仕方が変だな」
「う、うるさいっ!今話し掛けるな!!」
「はいはい……(ぷっ)…」
「あ、今笑ったな!」
「なんだよ細かいな〜」
「くそっ。覚えてろよ!」
「はいはい。覚えてたらね〜」

そんな会話をしつつあたし達はドライブを楽しんでいた。
耕一のアパートから車に乗ってドライブすること数時間。
あたし達は海にいた。
高速道路を使わなかったから時間がかかったけどあたしはそのほうが嬉しかった。
海といっても湘南とかではなく、房総半島だ。
最初、車の中から見ていたら何処が違うのか全く分からなかったけど車を降りて海辺まで行くとその違いは歴然だった。
とても日本の海とは思えず奇麗だった。

「どうだ、すごいだろう」
「……うん…どうして耕一は…こんなところ知ってるんだ?」
「ああ、ちょっと大学のサークルの旅行で一度だけ来たことがあるんだ。それで…その、梓と一緒に……来てみたいなと思って
「あ、照れてる」
「うるさい!こんなところにでも連れてくれば少しはおとなしくなるかと思ったら全く…」
「なにぃ〜、なんであたしがおとなしくならなきゃいけないんだ!」
「いつもうるさいからに決まってるだろ」
「なんだと〜……ま、いいや」
「どうしたんだ?いつものノリじゃないな?」
「いや、この海を見てたらどうでも良くなってきた。…ありがと、耕一」
「……ああ」
「なあ、ちょっと海辺まで行ってもいい?」
「ああ」

あたしは靴を脱いで波が来る間際まで近づいた。

ザザ〜

時々足をくすぐるまだ冷たい波が気持ちいい。

ザザ〜

また波が足元までやってくる。

パシャ パシャ

その波に誘われるようにだんだんと海に近づいていく。

「お〜い、梓〜」

耕一に呼ばれて振り向くと…

バシャッ!

いきなり水をかけられた。

「あはははは。来るときに笑ったお返しだ!」
「このぉ〜…人が感傷に浸ってるときにぃ〜〜〜!」

バシャバシャバシャ

あたしは耕一を必死に追いかける。
しかし耕一も逃げる。

バシャバシャバシャ

「待て〜〜〜!!!!」
「誰が待つか!」
「待てって言ってるだ…」

ザッパ〜ン

そのときひときわ大きな波がやってきた。
潮が満ちてきていたことといつの間にかに海の中に入っていたことがありあたし達はその波に飲み込まれた…。
 

 

○   ◇   ●   ◇   ○
「梓!無事か?」

不意に波に飲まれた俺は梓を見失っていた。
あの高さの波なら梓も飲み込まれたはずだ。

「梓!何処だ!!」

俺は梓を探した。
しかし俺の見える範囲には影も形もない。

「隠れても無駄だぞ!早く出て来い!」
「……こう……」

そのとき遠くから梓の声が聞こえた。
…海のほうから。

「あずさ!!!」

俺は梓を探した。
海を…房総の奇麗な海を探していた。

『耕一!』

そのとき梓の『声』が聞こえた。

『梓!何処だ!』

俺も声で梓を呼んだ。

『耕一!たすけ…』
「梓ぁ〜〜!!」

俺は叫んでいた。
そして、見つけた…。

「くっ…今行くぞ!!」

ザプッ バシャッ バシャッ バシャッ

「おい!梓!!返事しろ!」
「……」

梓の所まで泳いでいき浜辺まで連れて来た。
しかし、梓は目を閉じ返事もせず…動かなかった。

「梓!あずさ!!」

何度も体をゆすり、梓を呼んだ。
しかし…梓からの返事はなかった…。

「あずさ…」

  むに

俺がうつむき目を閉じているといきなり頬をつねられた。

「おはよ、耕一」
「…あ、梓…お前……」
「ああ、耕一があまりにも取り乱していたからおもしろくってちょっとからかってみたんだ」
「…」
「呼吸の確認もしないんだもんな。あの慌てぶりといったら…」

バシッ

「お前何考えてるんだよ!どれだけ心配したと思ってるんだ!」
「………ごめん…」
「……なんだよ、やっぱり今日は変だぞ、梓。いつもならこんなに素直に謝らないだろ…」
「…うん、やっぱりね…子の奇麗な海のせいかな…」
「そうか…」
「…二人ともびしょ濡れだね…」
「…ああ、お前が溺れる前からだけどな…」
「そうだね……」
 
 

そして俺達はどちらともなくキスをした。
奇麗な海をバックにして…。
 
 

END




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