休日の魔法


「お〜い、マルチ〜」
玄関から浩之さんの声が聞こえてくる。
「ちょっと待ってください〜」
私は急いで用意をしながら浩之さんに答える。
「早くしろよ〜」
「はい〜」
私は言いながら浩之さんがはじめてプレゼントしてくれた時の服に着替える。

  パタパタ…

「お待たせしました〜」
「よし。じゃあ行くか」
「はい〜♪」
 

今日は日曜日。
……浩之さんと久しぶりに出かける日曜日…。
私も本当は一緒に出かけたかったけど、浩之さんに迷惑をかけたくなかった…。
私と浩之さんが並んで歩いていると私だけでなく、浩之さんまで変な目で見られる…。
…そして、私は浩之さんと一緒に出かけるのを控えるようになった。
浩之さんは『そんな気にしてないぜ』って言ってくれたけど私は嫌だった。
そこで浩之さんが出した一つの提案が『耳パッドをはずして一緒に出かける』だった。
規則があったので私は反対したのだけれど、そのことを相談した長瀬主任の『別にいいよ』の一言で出かけることになった。
 

「なんだかすーすーします〜」
「そうか。いつもはパッドをつけてるもんな」
浩之さんが私の耳を見て言う。
「…そんなにじっと見られると恥ずかしいですぅ」
「あ、悪い…さて、どこか行きたいところはあるか?」
浩之さんが聞いてくる。
「えっと……浩之さんと…一緒ならどこでも…」
「…そうか、なら…」
そういって浩之さんが考え込み始めた。
「あの…私はいいですから…」
「ちょっと待てって……そうだ!!」
そう言って突然浩之さんは私の手を取って歩き出した。
「あう〜、浩之さ〜ん。待ってください〜。どこに行くんですか〜」
「デパートだよ」
「え?…お買い物ですか…?」
「そうだ…楽しみにしてろよ」
「でも、欲しいものなんてないです〜」
「…まあ、いってみようぜ」
私がそういっても浩之さんは聞いてくれない。
「ひろゆきさ〜ん(汗」
 
 

*          *          *



「あの…浩之さん…」
「何だ?マルチ」
「…今日はお買い物なのでは…」
「まあ、いいじゃねーか。久し振りにしっしょに出かけたんだし。……それとも、いやか?」
「そ、そんなことないですー。とっても嬉しいですー」
 

私たちはゲームセンターの前にいる。
浩之さんがずっと手を引っ張って来てくれたのでちょっと嬉しかった。
 

「マルチ、どれがいい?」
「…えーと、じゃあこれがいいです」
私は一週間高校に通っている間に浩之さんと一緒にしたエアーホッケーをさして言った。
「よしっ。じゃあ一緒にするか」
「はいっ」
「言っとくけど手加減はしないぜ」
「はい〜。望むところです〜」

カンっ…カンッ…カン…カコン!!

「あう〜、やっぱり負けちゃいました〜(泣」
「でも強くなってるぜ。よく成長してるな」

なでなで…

「えへへー」
「…じゃあ、次はどれがいい?」
「えーっと、浩之さんがしているのを後ろから見てますー」
「それでいいのか?」
「はいー」
「じゃあ……」
 

「浩之さんすごいですー」
「まあ、志保との対戦で鍛えられてるからな。…ちょっとトイレに行ってくるからちょっと待っててくれるか?」
「はい、わかりました」
私の返事を聞いてから浩之さんがトイレに向かって歩き出した。
 

「ねえ、彼女」
しばらくしてから3人のグループらしい人達が声を掛けてきた。
「一人で暇してるの?」
「暇なら俺たちと遊ぼーぜ」
「えーっと…その…」
「悪いようになしないからさ」
「おい!」
私が困っているところに浩之さんが帰ってきた。
「俺の彼女に何か用か?」
突然そんなことを浩之さんが言った。
「…え?…それって…」
私が戸惑っていると…
「ちっ…」
と言ってグループの人達は去っていった。
「…一人にして悪かったな…」
「いえー、浩之さんがすぐ来てくれたので平気ですー。それより…」
「もう出るか?このあと買い物もしたいし」
浩之さんが私の声をさえぎって言ってくる。
「え?あ…はいー、わかりましたー」
私は話を蒸し返さずそのまま浩之さんについてゲームセンターを出て行った。
 
 

*          *          *



「さて、マルチ。好きなのを買って良いぞ」
浩之さんは高級婦人服を指差しながらそう言った。
「え…あの」
「いらっしゃいませ。どのようなものをお探しですか?」
私が戸惑っていると店のお姉さんがそう言いながらやってきた。
「あ、このコに似合う服をお願いします」
すかさず浩之さんがそう言い私の背中を押した。
「せっかくだからいい服を選んでもらえよ」
「……はい〜」
私はそう答えるしかなかった。
 

「これなんてどうかしら?」
そう言ってお姉さんが服をあわせる。
「貴女ならかわいい服が似合うわね」
「え…あ、その」
「あ、どうせなら試着してみませんか?」
「え…あ、はいー」
私には選択肢が残されていなかった。
 

「ねえ、どうかしら?」
しばらくして口調もやわらかくなり服選びも架橋に入ってきた。
「え…でも高そうですー」
「いいじゃないどうせだから彼に高い服を買わせちゃいなさいよ」
「でも、ご主人様の浩之さんにそんなこと…」
「…ご主人様?…そんな風に呼ばせてるの?ちょっと許せないわね」
「え、違うんですー。私は…」
それから私はお姉さんに私がメイドロボであることや浩之さんにお世話になっていることを話した。
拒絶されるかもと少し怖かったけど、たぶん大丈夫って思ったから…。
「…そうなの…でも、メイドロボには全然見えないわね」
「はいー、私はドジばっかりして…」
「そうじゃなくって、ちゃんと自分の意志があるじゃない」
「あ、それはですねー。私は試作型でココロの回路を特別に搭載してるんですー」
「へえ、そうなの。なんだか面白いわね」
「そうですか?」
「ええ。ロボットが心をもったら世の中楽しくならない?少なくとも私はそう思うわ。…って貴女に話してもねぇ(汗」
「あははー(汗」
「まあ、その話は置いておいて服はどうするの?」
「えーっと…」
私が迷っていると…。
「じゃあ、彼に決めてもらいましょう」
「え?」
「ちょっと来てくれますかー?」
私が返答するよりも早くお姉さんが浩之さんを呼んでいた。
「はい。なんでしょう?」
「この服なんでどうかしら?」
そう言いながら試着した私を前に押し出す。
「え…っと」
「ちょっと、女の子を前にしたら言うことがあるでしょ」
「え?…あ、かわいいです…」
浩之さんが照れながらそう言う。
「じゃあ、これでいいですか?」
「え?…あ、はい。値段はいくらでしょうか?」

…たぶん浩之さんの予算を超えている…。

「そうねえ、予算はどのくらい?」
「え…っと、一応五千円くらいは見てるんですけど…」
「じゃあ、五千円でいいわよ」
「え…でも…」
「いいのよ、私からのおごり。貴方の彼女と楽しい話も出来たし」
「そうですか…じゃあお言葉に甘えて…」
「彼女に御礼を言いなさいよ」
「あ…はい。…ありがとな、マルチ」
「そんな…私は買ってもらってるんですし…御礼を言うのは私ですー」
「まあ、そんな話はいつまでしてても終わらねーから止めにしようぜ。」
「はいー(汗」
 

そして、私達はお店のお姉さんに御礼を言ってお店を出た。
 
 

*          *          *



「なあ、マルチ…」
帰り道で浩之さんが話し掛けてくる…。
「はい、なんですか?」
「みんなが俺達の仲を否定してるわけじゃあないんだ…次からはもっと一緒に出かけよーぜ…」
「はいー♪」
 

私はお店のお姉さんに一つ教えてもらった…。
もっと好きなことをやって良いんだと…。
だから……。
 

「浩之さん、次は遊園地いきたいですー」
「そうか、マルチもやっと分かったか…(なでなで)…」
 

もっと浩之さんと一緒にいよう…。

「浩之さん、次は遊園地いきたいですー」
 
 


END




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