間質性膀胱炎  泌尿器科いまりクリニックHP表紙に戻る

膀胱炎の中でも非常に症状の重い、激しいものがあります。普通の膀胱炎と違って粘膜だけでなく筋層などにまで及ぶ膀胱壁全体の炎症です。日本ではアメリカほど患者さんは多くありませんが、激しい症状に苦しんでおられます。間質性膀胱炎について、佐賀医科大学泌尿器科の高木紀人先生がまとめた報告がありますので、高木先生のお許しを得てここに掲載いたします。専門的な内容ですが、間質性膀胱炎の患者さんは本当に困っておいでですので、少しでもお役に立てたらと思います。

平成14年1月16日伊万里市ステーキハウス勝において唐津藤崎病院泌尿器科(桑原守正部長)と同皮膚科、西田病院腎臓内科と一緒に10人で勉強会を兼ねた新年会を開催いたし、交流と医学情報を深めました。園長が演者として、間質性膀胱炎の患者の会が作る米国のホームページhttp://www.ic-network.com/の紹介を行いました。米国は間質性膀胱炎の患者が70万人もおり、さすがに膨大な情報量です。詳しくは院長がまとめておりますので、ご参考ください。間質性膀胱炎まとめへ

 間質性膀胱炎の診断と検査

泌尿器科臨床セミナー     平成12年1月11日(担当:高木紀人)
間質性膀胱炎

1.一般的事項
尿意切迫感・頻尿や下腹部や会陰部の疼痛を伴い、感染や特異的な病理所見を伴わない膀胱の疾患。
(painful bladder disease complex)
診断基準(1987年:NIH:National Institute of Health)

2.疾患の頻度
(米国)患者数70万人、うち90%が女性。しかし男性患者も7万人。
10.6人:100,000人(全体)
18.1人:100,000人(女性)
(日本)
12.4人:100,000人(全体)
男女比 1:5.8(当科では全例女性で佐賀西部地区が多い)
3.合併症(同時に存在する病気として)
40%前後の症例でアレルギー疾患を基礎に有する。
SLE、シェーグレン症候群
鼻炎、蕁麻疹、気管支喘息
婦人科・消化器疾患(当科では1例虫垂切除、子宮頚部結紮術の既往)
外陰炎、片頭痛、扁桃炎
4.原因
はっきりとした原因は不明!
様々な因子がこれらの症状(症候群)と関わっているようです。
単一の疾患としてはとらえられない。
 考えられる原因として
 1).感染
  間質性膀胱炎患者の膀胱壁から細菌の遺伝子を検出したとの報告もあるが、また逆に検出しえなかったとの報告もあり、ウィルス・細菌感染の関連については現在マニアが研究中。感染による膀胱壁損傷、自己免疫反応などが一因になっているかもしれない。
 
 2).mast cell
  mast cellが特徴的な指標であるとする報告は多い
  膀胱潰瘍のない間質性膀胱炎の20%にmast cell(+)
  膀胱潰瘍のある間質性膀胱炎の65%にmast cell(+)
  
  上皮にmast cellが存在するのは通常の炎症反応の結果であり、より特徴的であることは筋層に存在することです。
  電子顕微鏡で間質性膀胱炎に存在するmast cellは活性化され、脱顆粒化していることが確認されている。
  *ストレスや寒冷やトラウマ等によりmast cellは誘導され、mast cellは血管作動物質や痛覚物質(例:ヒスタミン)と考えられる顆粒を放出する。またmast cell自身が膀胱粘膜を損傷したり、血管拡張を引き起こしたり、炎症細胞を動員するといった実験事実に基ずいている。
 3).膀胱粘膜上皮の異常説
  膀胱の膜透過性のbarrierと考えられているglycos-aminoglycan(GAG)が重要な役割を果たしている!
  GAGは膀胱粘膜への細菌、結晶、蛋白質、イオン等の付着を妨げる防御機構であるが、間質性膀胱炎ではGAG層が変性欠損し、膀胱粘膜の透過性が増し、痛覚物質が粘膜下に浸潤する。
 
 4).尿自身の異常説
  間質性膀胱炎の人では、何らかの尿中物質が移行上皮への毒性を発揮している?
  *実験的にも正常人の尿よりも、間質性膀胱炎の尿のほうが培養した移行上皮を障害した。
 
 5).自己免疫疾患説
  抗膀胱抗体の発見からリンパ球浸潤まで様々な研究が行われているが議論中。
 
 6).その他
  estrogenが間接的にmast cellのsecretionを促進する?
6.診断  
  1.診断基準
   1987年National Institute of Healthによる基準あり。  
   2.症状
   ・頻尿:数十回/日
    ・疼痛は膀胱充満時に悪化し、排尿とともに軽減
   ・必ずしも血尿は伴わない
 
  3.尿流動態検査
  ・不安定膀胱の除外
  ・膀胱充満時の疼痛の再現
  ・コンプライアンス(低容量と低コンプライアンス)
  ・尿意(しばしば100ml前後で尿意)
  4.麻酔下膀胱鏡
  ・麻酔下に行なわないと低容量のため観察できない!
  ・Hunner潰瘍は全例に見られるわけでない
  (真の潰瘍ではなくベルベット状の赤いパッチ。CISとの鑑別)
  ・glomerulation(水圧拡張後に著明になる)
   間質性膀胱炎に特異的ではなくBTや膀胱注入後や透析患者でもみられる
  ・水圧拡張後に生検(膀胱破裂の危険)
  ・カリウムテスト
   400mEq/lのカリウム溶液を注入して疼痛を観察する
  
 症状は間質性膀胱炎と診断していいのに膀胱鏡の所見がそろわないとき:診断が難しい

7.治療
  1.患者への説明(これが大事) 
   完全に治癒することは難しく、対症療法について説明する。
 
  2.薬物療法
   a.三環系抗うつ薬(抗コリン作用、神経伝達ブロック、sedation)
    アミトリプチリン(トリプタノール):25mg 1×v.d.s.
   b.抗ヒスタミン剤
    mast cellとの関連(アタラックスP:有効率30%?)
   c.ステロイド
    投与法は様々(当科でも1例は効果的であった)
   d.Ca拮抗剤
    膀胱収縮の抑制と細胞免疫の抑制?(有効率50%の報告あり)
   e.pentosan polysulfate(PPS)
    経口投与で尿中に排泄されGAGを補う(本邦使用不可)、膀胱注入もあり。
   f.nalmefen(鎮静麻酔剤)その他鎮痛剤
 
  3.膀胱注入療法
   a.硝酸銀
    最初は5000倍希釈の硝酸銀溶液を30〜60mlを3、4分注入し、1日置きに注入を続け最終的には100倍希釈にする(70%の有効率)
  
   b.次亜塩素酸(Clorpactin WCS-90)
    0.2%〜0.4%溶液を注入(70%有効)
    尿管狭窄の合併報告あり
  
   c.dimethyl sufoxide(DMSO)
   パルプ工場で生成されるlignin(木質素)の誘導物。水や油にとけニンニク臭のする物質。
    DMSOの薬理効果
    ・膜透過作用
    ・薬剤吸収促進
    ・抗アレルギー作用
    ・鎮痛作用
    ・コラーゲン分解
    ・筋弛緩
    ・mast cell histamine遊離?
   1960年代に整形外科、皮膚科領域で使用されはじめ、1968年、Stewartが初めて膀胱注入を行なった。50%のDMSO溶液50mlを15分間注入し2〜4週に1度注入したところ、70〜90%の有効率を得、副作用はほとんど無かった。効果の持続期間が問題?、しかし簡便性と副作用の観点から治療の第一選択とされる。但し、注入後短期間症状の悪化をみることがあり、これはヒスタミンの遊離作用のためと考えられている。
  
   d.ヘパリン
    ・抗凝血作用
    ・抗炎症作用
    ・線維芽細胞増生、血管新生、平滑筋細胞増生抑制
   ヘパリン10万単位/10mlを連日注入し、50%の有効率。
   (Perez-Marreo,Parsonsら)
  
   e.pentosan polysulfate(PPS)
   膀胱粘膜のGAGを補う(本邦使用不可)、経口投与あり。
  
   f.BCG
   1994年、Zeidmanらが患者をCISと誤診し、注入したことからはじまる。
   BCGはtype1のhelper T cellの強力な刺激物質で、これはICに関与するtype2のhelper T cellをdown regulateする。またBCGはNOのstrong stimulatorであり、間質性膀胱炎の患者の尿中NOは不足していることがしられている。
  
   g.その他
   ・capsicin・・・刺激が強すぎる
   ・lidocaine・・・効果が短時間
   ・Doxorubicin
   ・cromolyn sodium・・・mast cellの安定化。将来有望!
 
  4.神経刺激療法
   transcutaneous electric nerve stimulation(TENS)
   intravaginal stimulation
   鍼

   ・ TENS
     主に疼痛に対する治療であるが頻尿にも効果的
     1994年、Fall and Lindstrom
      潰瘍のある間質性膀胱炎:33人・・・54%有効
      潰瘍のない間質性膀胱炎:27人・・・26%有効
      プラセボ効果があるのかもしれない
   ・鍼
    1988年、Chang
      26人中22人に有効であった????
 
  5.外科的治療
   ・内視鏡による潰瘍部位の切除
    1985年、Fall
     30人中全員に疼痛の軽減、21人で頻尿の改善
     (laserを使用するのは危険!)
   
   ・膀胱拡大術
    有効性は様々な報告があるが、全体的には推奨されていない。
    症状の改善があまりみられない。
    間質性膀胱炎の患者の尿が腸管の炎症を引き起こしている可能性
    残存した膀胱による症状
   ・膀胱全摘出術+尿路変向術
    膀胱摘出にもかかわらず頑固な骨盤痛が残った症例がある
    (悪いのは膀胱だけではない?)

   6.水圧拡張術(hydrodistention)
   麻酔下に行ない、診断と治療を兼ねる。
   80〜100mmH2Oまで拡張し、3〜5分おく。
   膀胱粘膜の機械的拡張のため2〜3週間は症状悪化
   有効率50〜60%

 まとめ
1,佐賀西部地区の中高年女性の排尿痛、尿道痛には間質性膀胱炎に注意する
2,上記主訴にて医療機関を初診し、間質性膀胱炎の診断がつき、治療が開始されるまでに
  比較的時間を要した(患者の有症状期間が長かった)
3,ICは投薬治療(ポラキス、抗生剤、トフラニール等)に抵抗性であった
  (ステロイドについては効果不明)
4,水圧拡張術は短期間の効果しか望めない
5,DMSOは有効であり、再発症例でも再度注入を行なえば効果がある    

 

間質性膀胱炎の米国ネットワークを見た印象

間質性膀胱炎患者の国際連絡網のホームページから

Interstitial Cystitis Network
http://www.ic-network.com/
間質性膀胱炎患者(IC)の国際連絡網:どの医療機関や健康保険機関からも報酬なし。米英蘭加など
会の紹介:目的、会員、資金、スポンサー、入会方法
目標:ICで悩む患者の直面する問題点を全世界で話し合い、案を出し、計画に参加し、成果をを出すこと。世界IC患者に出す情報の質と内容を洗練する。年間行事活動、基金増加活動を共同で行う。国際会議、行事を共同で行う。新しい情報源を提供する。
IC患者ハンドブック:患者とその家族のための情報源
ICについて:定義、歴史
ICの定義:ICとは慢性骨盤疼痛病の一つで、膀胱とその周辺の繰り返す不快や疼痛を生じる状態。症状は症例ごとにさまざまで、穏やかな不快感、重苦しさ、圧痛や激しい痛みを経験する。痛みの強さは膀胱の充満につれて変化する。男性より女性に多く、米国70万IC患者のうち90%が女性。患者は仕事や生活が快適にできないでいる。
膀胱の理解のために:尿路の解剖生理、排尿機構、膀胱粘膜の防御層
ICの診断、検査法
ICの治療:ICと共に生活するために
治療法 
膀胱注入療法 DMSO(dimethyl sulfoxide),heparin,
cystitat(ヒアルロン酸), BCG, 硝酸銀とchlorpactin
経口剤: Elmiron(Sodium pentosanpolysulfate)、三環系抗鬱薬、抗ヒスタミン薬(アタp)、抗けいれん薬、Pyiridium, Uristat,
水圧伸展療法
胱蓄尿訓練
電気刺激法:表面電極、埋め込み電極、脊髄刺激(リスク大)
外科療法:TUR-Ec, TUR-ulcer, 除神経、膀胱拡大術、膀胱摘出
抗生剤による化学療法:短期間、繰り返す感染に長期投与、ICの原因が感染説
代替療法:慎重に受けるように、鍼、指圧、中国茶、栄養食品、マシュマロ、甘草
骨盤底筋療法:体操、マッサージ、リハビリ、biofeedback、ヨガ、れいき(碓井方式)
食事療法:避けるものと、奨励するもの:一覧表あり
膀胱刺激を生じるベストテン:クランベリージュース、コーヒ、紅茶、炭酸飲料、トマトや豆腐やある種の豆、ハーブ茶、たばこ、アルコール、酢、チョコレート、イチゴなどの酸っぱいジュース、食品添加物(グルタミン酸、硝酸塩など)
膀胱疼痛への対処:麻薬も使用、実際の疼痛にのみ使用するなら中毒はまれ、現実などからの精神的逃避に使用すれば中毒しやすい。
文献:24の医学、看護雑誌からICに関する文献を集めてその抄録を掲載。特集あり。すばらしく詳しい。プロでもなかなかここまでは調べがたし。
男性患者のためのページ:男の患者が7万人もいれば当然それなりの対策が必要。
新しいニュース
l FDAがファイザーのatarax錠剤の回収を命じた。
l 加州で疼痛に関する新しい法律ができた;ある家族から死んだ老人に対する不十分な医療について老人虐待とのことで内科医を訴え、150万ドルの賠償金支払いがあったことをふまえてできた法律。医師は疼痛緩和についての講義を受けることを義務づけた。
l 新薬発表:ICOS社がRTXと言う膀胱の知覚神経を麻痺する薬を発表した。しかし、Michael Chancellor, M.D., of the University of Pittsburghはすばらしい研究の成果と自慢するが2000 NIDDK Scientific Symposiumでは重篤な副作用が言われており、この薬はまだ使用しない方がよい。
l 昨秋にボストンで開かれた全米患者ホーラム:Dr.Emanuel Friedman (Metrowest Medical Center) 、患者らが治療経験、被治療経験や生活様式などについて講演。IC患者にとって大変有意義な会合で希望に満ちていた。協賛会員として、AkPharma社(Prelief), Desert Harvest (Makers of Aloe Vera), Edwards Lifesciences Research Medical (Rimso-50 DMSO), Medtronic, Inc. (InterStim), Ortho McNeil Pharmaceuticals (Elmiron),
l 会の今年の特別講演:Christopher Payne, MD, Asst. Professor of Urology at the Stanford University School of Medicine, NIHによる臨床研究ICtrial group(ICCTG),膀胱内BCG注入療法60%有効、27%placebo群、Peters K, et.al. J Urol 157:2090-4, 1997。その後8/9人で1年以上効果が持続している、Peters K, et. al. J Urol 159:1483-7, 1998
l 食事について:刺激物の少ないもの、レシピ
抄読会 平成14.1.16
泌尿器科いまりクリニック  小嶺信一郎

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