前立腺癌/泌尿器科いまりクリニック、佐賀県伊万里市 

前立腺癌とは

前立腺の外側にある被膜から発生する腺癌です。高齢男性に多い疾患です。前立腺癌が加齢につれ増大することが解剖や手術での検討で明らかになっています。さらにこのことは疫学的にも指摘されています。他の死因で亡くなった方の解剖では10-30%に前立腺癌が見つかっております。これは、前立腺癌の一部は放置しておいても生命の予後に全く影響を与えないものがあると言うことを意味しております。つまり、前立腺癌の中には癌とは名ばかりの、良性疾患と同じようなものがかなりの数を占めているようです。しかし、一部の前立腺癌の患者さんは癌が進行し、骨などに転移し、癌の痛みなどで苦しんでお亡くなりになっています。このように前立腺癌と言っても一様ではなく、かなりの割合で、良性に近くて、治療の不要なものがある一方で、本当に悪性で人を苦しめるものがあると言う様々な種類があります。

発生頻度には明らかな人種差があり、アメリカ黒人に最多で次に白人に多く、黄色人種には少なく、日本人は世界でも前立腺癌の少ない民族です。しかし、ハワイの日系人、アメリカの日系人の順に前立腺癌の発生が増えており、近年日本でも前立腺癌の報告が非常に増加しております。そこで食生活も含めた生活様式の欧米化と関係があるようだといわれております。私が20年前佐賀医科大学に赴任した頃は佐賀県の広い範囲から集まる患者さんの中で前立腺癌の患者さんは年間数例くらいでしたが、今では泌尿器科いまりクリニックだけでも月間数例の新患が出ています。やはり最近では非常に前立腺癌が増えているという印象があります。

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前立腺癌の症状(前立腺肥大症と多くは同様)
初期

頻尿:排尿の間隔が短くなること、1回の排尿量が少ないこと。つまり、膀胱に少しでも尿がたまると排尿したくなる。
切迫尿意:排尿しようという尿意を感じたらすぐに排尿しないと尿がもれそうになること。つまり排尿を我慢できないこと。

夜間頻尿:夜就寝後に何度もトイレに行きたくなること、時には1時間ごとに行く。この時には膀胱にあまり尿が貯まっていなくても、尿意を生じます。
尿が膀胱にたくさん貯まっていれば尿意を感じて目がさめますが、これは頻尿ではなく多尿です。夜に多量 に尿が出ることは夜間多尿です。この場合は当然何度も排尿に行きますが、多尿であって頻尿ではありません。

中期

上記の症状に加えて以下のような症状が出現します。

排尿困難:尿がなかなかでない。トイレに立ってすぐ尿がでない。尿の勢いがない。
残尿感:排尿後も尿が残ったような気がする、実際に残尿がある。

末期

上記の症状が次第に進んで以下の症状も加わってきます

尿閉:排尿困難が強くなりついに 尿がでなくなり、膀胱内に尿が充満すること。下腹が膨れてとても苦しい。しかし、残尿が少しづつ永年に亘って貯まってゆっくりと膀胱が過伸展してしまう場合は知覚が低下したり麻痺するので、苦しくなく本人も気付かないことがあります。

癌の転移による痛み:全身の骨やリンパ節などに転移し、癌性疼痛・貧血を生じます。

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 前立腺癌の診断と検査
直腸診による前立腺触診digitaI rectal examination(通称DRE)が必要であり、肛門からの指挿入によって、前立腺の大きさ、堅さ、しこり、圧痛、不整,非対称性などの所見がわかるので、前立腺炎、前立腺肥大症との鑑別診断ができます。

 血液検査で前立腺特異抗原PSA:Prostatic Specific Antigen)を測定することでより早期に発見することが可能になりました。集団検診ではこのPSA測定が簡便で有用です。PSAが高値である場合にさらなる検査を行います。PSAまたはさらに略してPAとしています。測定方法が数多くありそれによって正常値が少し違っています。PSA検査は非常に敏感ですので、早期癌の発見には非常に効果的で、それまで判りにくかった癌をたくさん発見しております。しかし、敏感すぎるので、予後の良い高分化腺癌も多く発見していますので、これらの中から本当にすぐ治療が必要なものかどうかを判断してゆくことが、今後の課題でしょう。

 前立腺生検病理組織検査小さな針で前立腺のごく一部を採取し、それを顕微鏡で調べるという検査です。この検査は痛みや出血を伴います。そこで、泌尿器科いまりクリニックでは痛くないように麻酔を行って検査をしております。標本採取して、約1週間後に結果が出ます。この検査によって診断が確定します。

病理組織検査正常な前立腺組織から悪性まで大まかに5段階あります。これを悪性度といい、正常、高分化腺癌、中分化腺癌、低分化腺癌、未分化腺癌です。一般的にこの順番に予後(癌の進行による症状などの将来の見通し)が悪くなります。癌の予後を決定する因子としてはいろいろありますが、重要なものは癌の進行度、悪性度です。進行度とは癌の進み具合で、癌の大きさや回りにも浸潤しているか、転移がないかどうかです。悪性度が少なく、進行度の少ないものほど予後が良く、長生きします。

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癌の告知について
泌尿器科いまりクリニックでは患者さんに検査前に希望をお聞きしております。事前に患者さん本人が告知を希望され、家族も同意された場合には検査結果をありのままに報告します。患者さんが本当のことを聞きたくない場合には患者さんには報告しませんが、家族には結果をきちんと報告して、癌に対する治療はすぐに開始しております。

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前立腺の大きさや癌の進行具合を調べる検査

画像診断として
逆行性尿道造影:尿道から膀胱内に造影剤を注入します。痛い検査ですが、尿道の狭いところや前立腺の長さ、尿道の圧迫具合から前立腺の大きさが推定できます。癌の場合は尿道やその周囲への癌の進み具合が分かります。
腹部超音波検査経直腸超音波検査CTMRI
排尿異常の検査

尿流動態検査(尿路水力学的検査):膀胱に水を注入しながら膀胱の容量 と圧力を測定するるものです。膀胱や尿道の機能やその異常がわかります。
残尿測定:排尿直後の膀胱内の尿量 を調べます。正常では残尿は0です。以前は膀胱内に直接管を挿入して調べていましたが、今では超音波である程度正確に分かるようになりました。
尿流量測定:尿の勢いを調べる検査です。機械に排尿すると一秒間に出た尿の量 や 最大の尿流が分かりますので、尿の勢いを客間的に把握できます。

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前立腺癌の治療

まえがき

米国では男性の癌患者で前立腺癌が最多数で第1位であり、癌死の第2位ですので、深刻な医療問題となっており、そのためいろいろな治療法が行われて、内容も進んでおり手術もたくさんおこなわれています。欧米では放射線治療が盛んですが、日本人に比べて放射線に強いことがその理由の一つです。また、ホルモン治療の副作用である心臓血管作用が欧米では重症例が多いので、ホルモン治療が行いにくいと言うことも、放射線治療が盛んな理由の一つのようです。さらに、ホルモン治療による勃起障害もいやがられる理由の一つではないでしょうか。

日本人の場合は欧米に比べて前立腺癌の頻度が少なく、しかも予後が良いので、死亡率も今まで低いままでした。しかも、癌があっても全くそのまま進行しないで、寿命を終える方が多く、発見したらすぐ手術をするというのはやりすぎであり、しなくてもよい手術をしているおそれがあるかもしれません。

前立腺癌にはホルモン治療がとても有効ですが、副作用もありますし、それが初めから効かない患者さんや、初めは効いていて後に効かなくなった患者さんに、これからどのような治療法をすればよいかが今後の問題です。

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前立腺癌の治療(総論)

ホルモン治療(内分泌療法:まず第一にこれです
食事療法:他の治療と同時に食事も変えます。これが一番大切かもしれません。
放射線治療:体外から照射するものと体内から照射するものとがあります。
粒子線治療:効果100%ですが、まだ施設が少なく、保険がききません。
手術:根治的前立腺全摘術(開腹術・内視鏡手術)
抗癌剤:根治は無理かもしれないがが、ある程度効果がある
代替療法:漢方薬や民間療法などいろいろな治療を組み合わせる

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ホルモン治療(内分泌療法

前立腺自体が男性ホルモンの標的器官です。つまり男性ホルモンが前立腺を発育させ、精液を分泌させます。そこで男性ホルモンが前立腺癌の増殖を助けるということがわかって、この男性ホルモンを減らしたり消失させるような、抗男性ホルモン療法が主です。前立腺癌にはホルモン治療が劇的に効くことが多いのでホルモン治療(内分泌療法)は前立腺癌の第一選択治療法です。1941年にハギンズとハッジが前立腺癌のホルモン治療を確立し、1966年ハギンズはこの功績でノーベル医学・生理学賞を受賞しております。それほどこの治療法は効果的でした。現在もこのホルモン治療は有効ですが、今はこのホルモン治療が効かない患者さん、あるいははじめは効いていたが次第に効果がなくなってきた患者さんをどうするかで、様々な治療法が行われ、開発されつつあります。

抗男性ホルモンとしての女性ホルモンであるエストロゲン剤-合成エストロゲンであるホスフェストロール(商品名ホンバン)は直接前立腺に作用して5アルファ還元酵素を抑えることで、テストテロンが活性型の55アルファ-デハイドロ-テストテロンになれなくなるので前立腺癌を抑えます。これを飲んだり点滴などの注射では男性ホルモンが低下して、睾丸を摘出することと同じレベルまで少なくなります。しかし、女性ホルモンとしての副作用があります。それは乳房が大きくなったり、食欲が出て太ってきたり、睾丸が萎縮して勃起が低下したりすることです。その中でも太ることと併せて心臓血管系の副作用として、心臓に負担が来て、まれでしょうが心不全を生じやすくなることもあります。

抗アンドロゲン剤内服剤として、ステロイド性の抗アンドロゲン剤、非ステロイド性の抗アンドロゲン剤とがあります。共に前立腺に直接作用して、前立腺を縮小させ、癌を抑えます。しかも、中枢性に作用して抗アンドロゲン作用を生じます。やはり上記のエストロゲン剤よりは強くはありませんが同様の副作用があります。両者の作用機序が少し異なりますので、副作用などで異なってきます。

  1. ステロイド性の抗アンドロゲン剤 :酢酸クロルプロマジン(商品名プロスタール)、アリルエストレノール(商品名パーセリン)など。抗ゴナドトロピン作用も併せ持っているので、視床下部からのLH-RHが低下するので、LHも男性ホルモンも低下する。
  2. 非ステロイド性の抗アンドロゲン剤 :フルタミド(商品名オダイン)、ビカルタミド(商品名カソデックス)など。陰性フィードバックが働き視床下部からのLH-RHが増加するので、LHも男性ホルモンも増加する。つまり、前立腺は小さくなっても勃起の低下が少ないと言うことです。

LH-RHアナログ酢酸リュープロレリン(商品名リュープリン)、酢酸ゴセレリン(商品名ゾラデックス)。男性ホルモンを作るためには脳下垂体前葉からでる性腺刺激ホルモン(LSH,FSH)が睾丸に作用することが必要です。つまり脳下垂体から出るLHが睾丸を刺激してそこで初めて男性ホルモンを睾丸が作ると言うことです。この性腺刺激ホルモンを出させるためにはさらにその上位で脳の視床下部から性腺刺激ホルモンの放出ホルモン(LH-RH)が出ないといけません。このように3段構えでホルモンを作っているわけです。LH-RHアナログはこの性腺刺激ホルモンの放出ホルモンに似ておりますので、LH-RHアナログといい、まるで放出ホルモンであるかのように脳下垂体が取り込みます。いったん取り込むと一時的に性腺刺激ホルモンがどっと出ますが、しかし、取り込んでも本来の放出ホルモンのように働きませんので、その後は性腺刺激ホルモンの分泌が起こりません。このようにして、男性ホルモンを減らすように作用します。

除睾術睾丸を摘出することで男性ホルモンを減らします。しかし男性ホルモンは睾丸のみでなく、わずかですが副腎も作っています。このわずかな男性ホルモンもかなり強い作用をすると言われておりますので、除睾術のみでは完璧ではないようです。しかも睾丸を取る、と言うことは男性にとってはかなりつらい治療法ですので、年輩にならないとなかなか踏み切れないようです。やはり除睾術はいやだろうと同情いたします。手術自体は当院では腰部の硬膜外麻酔という脊椎麻酔の一種にマスクによる全身麻酔を組み合わせて、寝ているうちに行い、片側15分以内で、全部で30分くらいで済んでいます。

間欠投与方法:
ホルモン治療は今までは、継続して行われ、有る程度の血中濃度を常に維持するように、持続して内服・注射を行ってきました。ところが、数年前から時々の治療で良いのではないかと言う意見が出てきています。前立腺癌のホルモン治療を時々行う、あるいは、再燃した時に再開すると言う方法です。持続治療と比較しても劣っていないと言う報告が出ているようです。副作用や医療費を減らし、しかも効果が同等であればこの方法も検討に値するようですが、今はまだ始まって日が浅いので、本方法の価値はこれからはっきりすることでしょう。

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食事療法

前立腺癌が動物性たんぱく特に乳製品の摂取によって発生しやすくなることが疫学的に判ってきています。そこで乳製品や肉類を控え、野菜中心の食生活で前立腺癌などのガンを治療しようとする試みが以前から行われています。泌尿器科いまりクリニックでも、食餌療法の中で済陽先生の方式を参考にがんの食事療法を平成23年4月から始めました。

コリンキャンベル博士のチャイナスタディーはガンと食事の大規模な疫学研究です。これによると動物性たんぱく質が多くなるとガンの発生が増える。そして、ネズミにアフラトキシンやニトロソアミンなどの強力な発癌物質を与えても低蛋白食ではガンの発生が少ない。高蛋白食ぐんと比べて0:100と言う明らかな差異がある。B型肝炎に伴う肝臓癌も高蛋白食で増える。などと言うことが判り、欧米風の肉や乳製品、卵などの動物性たんぱくの多い食事はガンになりやすいようです。

日本腎泌尿器科予防医学研究会誌2006年14巻1号p46-48では1988年から1990年い日本各地の住民11万人を調査し、バターの消費が前立腺癌発生の危険因子であり、牛乳も多く消費すれば危険因子になったと報告した。

そこで、前立腺癌になった方は、肉や牛乳などの動物性たんぱくを止めて、野菜と玄米中心の食事をする必要があると存じます。このように書くと、ほとんどの方はずいぶんと抵抗があって、そんなことはとても出来ないし、するにしても時々このような食事をすればよいと思われるでしょう。しかし、本気で行おうと思わないとがんは治らないでしょうし、きつい食事療法も意外と何とか出来るものと存じます。

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放射線治療
もともと前立腺癌は放射線にそれほど弱くないし、かなりたくさん照射しないと効果がないので、あまり放射線治療はされてきませんでした。しかし、最近ではいろんな工夫がされて放射線治療も一つの効果的な治療方法とされています。放射線治療には前立腺に体外から照射する方法と、前立腺内部に放射線源を打ち込む方法があります。以前からホルモン治療が効果のない場合に行われていますが、最初から治療の第一選択となることもあります。欧米ではかなり盛んに行われており、日本でも見直されつつありますが、欧米ほど盛んではありません。なぜかはわかりませんが、欧米人は放射線治療に対してかなり強くできていますが、日本人は放射線照射に比較的弱くてすぐ体調不備や疲労倦怠感が強く出現してくることもその理由の一つかもしれません。病気が前立腺周辺に限局しているときは根治も望めるようです。前立腺ガンの骨転移で癌性疼痛に対しての放射線照射は痛みを減らすことに相当の効果があるようです。

体外照射法
以前から有る方法で、体外の線源からコバルトなどの高エネルギーを前立腺癌に照射して、癌細胞をたたく方法です。放射線が体を通過する時に、皮膚や腸などの臓器も同時にたたくので、放射線皮膚炎や放射線腸炎などの合併症を起こすことが有ります。そこで、一方向からの照射でなく、多方向から照射して、皮膚などに当たる放射線量を減らす工夫がされています。その一つに日本人が考案した3次元原体照射法があります。

IMRT
画期的な新照射技術として最近、強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy: IMRT)があります。コンピュータで腫瘍に放射線を集中して照射する体外照射方法です。今までよりもさらに理想的な放射線治療が可能となり、抗腫瘍効果の向上と合併症の軽減ができるようになりました。新しい医療なので現在、保険適応は少なく、僅かに前立腺癌、脳腫瘍、頭頸部癌のみです。平成21年7月現在、今のところそれ以外の癌治療には自費になるようです。

体内照射法:(Brachytherapy)
最近の方法で、放射線の飛距離の短いごく小さな線源を前立腺の中に直接打ち込んで、癌をたたく方法です。線源を打ち込んだままにしておく方法と、線源を数日間経って取り出す方法とが有ります。

メタストロン
平成21年秋から保険適応になった新しい放射線治療法です。 塩化ストロンチウム89(89Sr)を注射すると骨転移部に比較的長くとどまり、その間放射線を出して、骨転移部の痛みを和らげると言うものです。残念ながら癌の根治療法では無くて、骨転移の痛みを対象とした治療のようです。副作用として造血障害があり、白血球や血小板、赤血球が減ることがあります。

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粒子線治療

局在性の前立腺癌が一番の適応で治癒率が100%(ただし、転移の有る癌ではこれだけでは治癒は無理のようです)

第30回佐賀県消化器癌懇話会 :平成20年9月19日佐賀市マリトピアで開催され、院長が出席し勉強しました。兵庫県立粒子線医療センター、 菱川良夫院長による特別講演:兵庫の粒子線治療からの要旨です。

 粒子線には水素ガスから粒子を取り出す陽子線と、メタンガスから粒子をとり出す炭素線(重粒子線)とがあり、陽子線の方が軽いので装置が比較的扱いやすいが、エネルギの広がりがあり、照射野が少し鈍い。炭素線は重いので装置も大きく扱いにくいが、照射野が鋭い。粒子線を加速器(シンクロトロン、サイクロトロン)で光の速度の6から7割の速さに加速して、癌細胞に打ち込み、癌細胞のDNAをズタズタに破壊することで癌細胞のみを死滅させる。粒子線治療は抗がん剤や放射線治療の代わりというよりも、手術療法の代わりなる治療法。低リスクで、価値の大きい治療。遠方の患者は入院は必要かもしれないが、ベッド上の安静は不要な治療法。まず患者の情報をファックスなどで見て、治療の適応を決める。治療のためにCTとMRIを行い正確な照射部位を決め、プラスチックで固定具を作る。放射線技師、医師とで治療計画を決めるのに簡単な前立腺癌で1時間、複雑な頭頚部癌で1ないし数日かかる。今後は欧米で行われているように医学物理士や加速器技術者などの参加が必要になる。治療費は高度先進医療が適応されれば288万円は出るので残りの100万円前後を医療保険で賄う。1カ所の治療でこの値段。早期で局所の頭頚部癌が良い適応で、上顎癌、眼癌、鼻腔癌などは手術せずに治るので跡が非常にきれい。早期で局所であれば肺癌も治療できる。前立腺癌が照射が簡単で、ホルモン治療を組み合わせた粒子線治療が最善のようだ。前立腺癌にのみ関しては5年生存率は100%だが、実際にはほかの疾患で亡くなっている。前立腺照射の晩期合併症として直腸粘膜の出血があるが、すぐ対処できる。しかし、このために照射前に直腸鏡を行っているが、おまけとして直腸ポリープを見つけることが多い。粒子線治療が消化管に当たるとは穿孔するので、癌と2センチの隙間が必要。隙間を作るためにペッサリーや大網を挿入する。

現在日本では数箇所のみですが、これから施設が次々に建設される見込み。現在建設中や建設計画中が数箇所あり。

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手術
根治的前立腺全摘出術:前立腺を被膜とともに摘出し、さらに骨盤内リンパ節摘出(廓清)術を行います。ただし癌の進行が少なく、被膜を越えていないこと、おおよそ70歳以下であることが条件です。しかもかなりの出血を伴うことが多いので輸血が必要な場合が多いようです。そこで、手術の前にあらかじめ自分の血液を少しずつ貯めておいて、手術の時に使用します。これを自己血輸血と言います。天皇陛下も御手術に際して自己輸血をなされました。70歳以上の場合は根治手術でも薬でもその予後はほぼ同じではなかろうかというのが一般的な考えです。手術後の副作用としては、尿失禁や勃起不全があります。手術後の勃起不全の予防については神経温存方法があり、この方法とは勃起に関係する神経を手術の際に摘出したり切除したりしないで、できるだけ残しましょうとする方法です。
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抗ガン剤
今までは前立腺癌に対しては抗ガン剤がほとんど効かなかったので、あまり行われていませんでしたが、最近ではタキソテールなどが有効です。しかし、副作用が大きいことと、作用時間が短く、投与中はそうとうの効果がありますが、投与を終了したとたんに癌が再燃するようです。
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複合療法(種々の治療法を同時に組み合わせて行います)
放射線治療+ホルモン治療:はじめから予定して行うと言うよりも、はじめはホルモン治療を行っていたが、次第に効果がなくなってきてそこで初めて放射線治療を組み合わせることが多いようです。放射線による副作用がかなりありますが、症例によってはたいへん有効な治療法です。
ホルモン治療+根治的前立腺全摘出術(ネオアジュバント内分泌療法):ホルモン療法を行い、前立腺癌を小さくし、さらに小さな転移巣も治療し進行度が低下したところで手術を行う方法です。根治的前立腺全摘出術を行うためには癌があまり進行していないことが必要ですが、この方法ですと今まで手術できなかった進行した癌でも手術ができるようになります。この治療法が真に有効かどうかについて厳密な調査はこれからの課題でしょう。つまり、初めのホルモン治療で軽快したことが、見せかけだけなのか本当に軽快したのかどうかと言うことです。
ホルモン治療のうちLH-RHアナログ+抗アンドロゲン剤:男性ホルモンは睾丸のみでなく、わずかですが副腎も作っています。このわずかな男性ホルモンも前立腺に作用して癌の増殖を起こすので、副腎由来のこの男性ホルモンも抑制するという意味で使用されています。一時期非常に有効であるとされていましたが、再燃焼例やこと治療をやめた時に一時的に癌が縮小するという現象もあり、この治療法も万能ではないようです。

ホルモン治療のうち+抗アンドロゲン剤:この治療法も上記の方法と同様に副腎由来のこの男性ホルモンも抑制するという意味で使用されています。

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代替療法

癌の治療をいわゆる西洋医学のみでなく他の治療方法を行うというものです。他の治療方法とは、種々の民間療法や漢方医学、気功、呪術、健康食、ホリスティック医学、自然食、等々数多くあります。実際に効くこともあり、効かないこともあるようです。ある患者さんやある癌には有効であっても、別の患者さんや別の癌にも有効とは限らないようです。

わたくし個人的には、医学にはまだまだ解明されていないことが膨大にありますので、頭から無意味だとは決めつけないように思っております。今行っている医学を含む科学全般についても、後世のより発達した未来からみると、呪術に毛の生えたような程度の原始的なことかもしれません。その中で懸命にもがきあがいているだけなのかもしれませんので。
さらに、癌にかかってみれば、自分が病気のことを調べて、選択していろいろな治療法を試すのはむしろ当然であって、医師はそれを助けるように、検査を行ったり、診断したりして、治療効果を検討する必要があると思います。あるいは自分の責任において、検査のみで治療を受けず今までどおりの生活を続けることも一つの立派な生き方と存じます。前立腺癌では進行が比較的ゆっくりですし、かなり悪性の場合でも予後は数年ありますので、交通事故や犯罪などで、突然大けがをしたり亡くなられた場合の無念さに比べると、残された時間を人によっては有意義に使うことができるような気がします。

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治療指針

一般的に、早期癌や、転移、周囲への臓器に浸潤の無いものは前立腺全摘術と骨盤内リンパ節廓清術を行い、いわゆる根治的全摘術を目指します。ただしこの方法は原則として70才未満の患者に適応となります。70才以上では根治手術も内分泌治療も成績が同じだからです。

前立腺癌が進行していたり、早期癌でも70才以上の高齢者は原則として内分泌治療を行います。あるいは、放射線治療や複合療法です。特に進行した場合、つまり骨やリンパ節への転移や、周囲の臓器(膀胱や尿管、後腹膜腔)などに浸潤している場合は、まずはじめに内分泌治療(ホルモン治療)を行います。そして、癌末期の癌性疼痛や神経圧迫などの痛みや麻痺に対しては、対処療法として、緩和ケアを行います。骨転移に対しては、高カルシウムに対する薬であるビスホネート製剤の点滴が有効と言う報告が最近多いようです。緩和ケアは治せないから癌に対する治療を諦めて、仕方がないから行うと言ったものではなく、むしろ非常に重要な治療法です。今までのすべての治療法と同等以上に重要な治療と存じます。なぜなら誰でも最後には、癌でないにしろ、何かしらの原因で永眠するわけですので、即死以外に対しては緩和ケアが必要でしょう。すべての病気に対して緩和ケアを必要とされますので、実に大切かつ必須の治療と存じております。

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再燃し、進行して骨などに転移した前立腺癌

内分泌治療などが効果が少なくなり、進行して骨に転移した前立腺癌の治療は、決定的なものが少ないために、かなり難しく、困った場合が多いようです。今治療法としては、主な治療法としては、1.ホルモン治療の工夫、2.ステロイド療法、3.ARB療法、4.ビスフォネート製剤、5.抗癌剤、6.放射線治療、7.手術療法などがあります。平成19年の日本泌尿器科学会総会、神戸市でこの話題についての総会特別企画としてシンポジウムがありました。このシンポジウムでは次の治療法について話し合われました。治療法とは、1.ホルモン治療の工夫、2.ステロイド療法、3.ARB療法、4.ビスフォネート製剤、5.抗癌剤、でした。その要旨を以下にまとめてみました。

1. ホルモン治療の工夫:初回のホルモン治療で再燃するものはには3通りの機序がある。1)アンドロゲン非依存性ホルモン感受性癌の場合はアンドロゲン除去症候群(AWS)があるか確認する。2)初回治療がMABの場合は薬を変更する、つまり他のホルモン剤に変更してみる。アンチアンドロゲン交替療法。3)初回治療が去勢単独の場合は、ホルモン薬を追加する。以上の3通りの方法が意外と良い成績であった。千葉大学泌尿器科、鈴木啓悦ら。

2. 再燃前立腺癌の骨転移に、ステロイド剤が有効で、中でもデキサメサゾンが良かった。60%の症例で、骨痛、PSAの5割以上の改善があった。30%の症例で貧血の改善(Hb2g/dl以上) 大阪大学大学院、西村和郎。

3. もともと血圧下降させる降圧剤であるACE阻害剤とARBが再燃前立腺癌に効果があることが経験的に判っていたが、その作用機序を調べた。特にARBで30%の症例でPSAの減少があり、50%の症例で全身状態の改善があった。ARBは抗酸化作用を持ち、癌細胞の増殖と血管新生を抑え、腫瘍の間質に作用して腫瘍の発達も間接的に抑える。横浜市立大学大学院、植村博司ら。

4. 破骨細胞を抑制するビスフォネート系製剤が、骨転移に有効。さらに近年ビスフォネート系の新薬も登場した。群馬県立がんセンター、清水信明ら

5. 前立腺癌に対してはまだ保険適応でないが、タキサン系の抗癌剤を他の抗がん剤やホルモン療法などと組み合わせることで、ホルモン抵抗性の前立腺癌や骨転移に有効。群馬県立がんセンター、清水信明ら、島根大学泌尿器科、浦上慎司ら。

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